ミッドナイト (漫画)

手塚治虫の遺作にして異色作『ミッドナイト』：深夜の街を駆け抜ける人生ドラマ

手塚治虫の漫画作品『ミッドナイト』は、1986年から1987年にかけて『週刊少年チャンピオン』に連載された作品です。主人公は深夜タクシー運転手のミッドナイト。本名は三戸真也で、複雑な過去を持つ人物です。

物語の概要

『ミッドナイト』は、ミッドナイトが様々な乗客を乗せ、彼らの人生に関わっていくオムニバス形式の物語です。各話は独立しており、ミッドナイトは狂言回しとして、乗客たちのドラマを静かに見守る役どころが多い一方、時折、彼自身の過去や葛藤が描かれます。

物語の特徴は、ミッドナイトが「モグリ」（無免許）のタクシー運転手である点、そして人気漫画『ブラック・ジャック』の主人公、ブラック・ジャックがセミレギュラーとして登場する点です。ブラック・ジャックはミッドナイトの恋人、マリの治療に関わったり、物語の重要な局面でミッドナイトを助けるなど、深く関わっていきます。このことから、『ミッドナイト』は『ブラック・ジャック』の外伝的な作品とも解釈されています。

当初は『ドライブラー』というタイトルで、超能力を持つロボット自動車が登場するSF作品として構想されていましたが、手塚治虫の入院や類似作品の存在を理由に、現在のタクシー運転手の人情物語に変更されました。

連載当時、各話のサブタイトルはなく、第1部は「ACT.○」、第2部は「SCENE.○」と表記されていましたが、単行本では統一的に「ACT.○」と表記されています。また、意外な結末を迎えた最終話は、単行本初版には収録されていませんでしたが、後の版では収録されるようになりました。

ミッドナイトと主要登場人物たち

ミッドナイトは、茨城県出身の複雑な過去を持つ人物です。不良時代を経て暴走族のボスを務めていましたが、事故で恋人を植物状態にしてしまい、彼女の治療費を稼ぐためにタクシー運転手になったという過去を持っています。タクシーは暴走族時代からの愛車で、様々な改造が施されています。

ミッドナイトの恋人、マリは事故の後、植物状態のまま物語を通して入院を続けています。ミッドナイトは彼女を深く愛しており、その思いが物語全体を貫いています。また、ミッドナイトは、タクシー運転手仲間やラーメン屋の店主金太郎など、周囲の人々との交流を通して、人間味あふれる物語を紡いでいきます。

ブラック・ジャック以外にも、物語には個性豊かな登場人物が登場します。ライバル企業の陰謀に巻き込まれるトラック運転手のかさぎカエデ、ミッドナイトの双子の妹である土浦マヒル、脳死研究の第一人者であるリーゼンバーグ教授など、それぞれの事情を抱えた人々がミッドナイトの人生に影響を与えていきます。

メディアミックス

『ミッドナイト』は、漫画連載だけでなく、舞台化や映像化もされています。2024年には、Appleの「iPhoneで撮影 - Shot on iPhone」企画の一環として、三池崇史監督、賀来賢人主演による実写作品が公開されました。

まとめ

『ミッドナイト』は、手塚治虫の晩年の作品であり、彼の最後の週刊連載作品でもあります。ミッドナイトという魅力的な主人公、ブラック・ジャックとの絡み、そして様々な人間ドラマが描かれた、手塚治虫らしい作品です。単行本未収録エピソードを含む『ミッドナイト ロストエピソード』の刊行により、改めてその魅力が再認識されています。深夜の街を舞台に、人生の光と影を描いた、忘れがたい作品と言えるでしょう。

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