ミツバチのささやき

ミツバチのささやき

『ミツバチのささやき』（原題: El espíritu de la colmena）は、1973年に公開されたスペイン映画です。監督はビクトル・エリセ、主演はアナ・トレントが務めました。この映画は、フランコ独裁政権下のスペインを舞台に、内戦後の社会の不安と、少女の純粋なまなざしを通して、人間の心の奥深くに迫る物語です。

ストーリー

1940年頃のスペイン、カスティーリャ地方の小さな村。映画『フランケンシュタイン』の上映をきっかけに、姉妹のアナとイサベルは、映画の世界に強い興味を抱きます。姉のイサベルから「フランケンシュタインの怪物は精霊で、目を閉じて『私はアナ』と呼べば現れる」と教えられたアナは、その言葉を信じます。

一方、アナの家では、父は養蜂に没頭し、母は毎週のように手紙を出すものの、夫婦の間に会話はほとんどありません。姉妹は仲が良いものの、イサベルはアナをからかうことを楽しんでいます。

ある夜、村の郊外に脱走兵らしき男が現れます。アナは男と出会い、彼に父のオーバーと食料を渡します。しかし、その男は射殺されてしまいます。アナは事件に関わったことを父に知られてしまい、行方がわからなくなります。

夜の森をさまよっていたアナは、池のほとりでフランケンシュタインの怪物に遭遇します。恐怖で目を閉じたアナは気を失いますが、翌朝無事に発見されます。しかし、アナはショックから口をきかなくなり、眠らず、食事も取らなくなります。そんな中、アナは寝室の窓を開け、イサベルに教えられた言葉を思い出しながら目を閉じるのでした。

キャスト

フェルナンド（父） - フェルナンド・フェルナン・ゴメス
テレサ（母） - テレサ・ヒンペラ
アナ - アナ・トレント
イサベル（姉） - イサベル・テリェリア
ミラグロス（使用人） - ケティ・デ・ラ・カマラ
治安警察官 - エスタニス・ゴンサレス
フランケンシュタインの怪物 - ホセ・ビリャサンテ
逃亡者 - ジュアン・マルガロ
ドナ・ルシア（教師） - ラリー・ソルデビラ
医者 - ミゲル・ピカソ

歴史的背景

この映画は、フランコ独裁政権下のスペインを舞台としています。内戦によって国民は分裂し、戦後も人々は報復の恐怖に怯えながら生きていました。映画が製作された1973年には、独裁政権の厳しさは和らいでいましたが、依然として政権批判は許されない状況でした。そのため、スペインの芸術家たちは作品に象徴を多用し、メッセージを表面に出さないことで検閲を逃れていました。

象徴化

この映画には、様々な象徴が用いられています。

アナの家庭の分裂: スペイン内戦による国家の分裂を象徴しています。
荒涼とした風景: フランコ政権成立当初のスペインの孤立感を示しています。
ミツバチへの嫌悪感: 統率がとれているが想像力が欠如したフランコ政権下の社会を隠喩している可能性があります。
蜂の巣: アナの家の窓ガラスの六角形模様や蜂蜜色の明かりに現れています。
アナ: 1940年当時のスペインの純粋な若い世代を象徴しています。
イサベル: 金と権力に取り憑かれた国粋主義者を示唆していると考えられます。
ラストシーン: スペインの将来に対する希望を暗示していると解釈できます。

製作

映画のロケは、スペインのカスティーリャ・イ・レオン州セゴビア県オユエロスの村で行われました。主要な登場人物の名前は、演じた俳優たちの実名と同じです。これは、主人公アナを演じた当時5歳のアナ・トレントが、役名と実名で混乱するのを避けるためでした。

映画のタイトル「ミツバチのささやき」は、モーリス・メーテルリンクの著作『蜂の生活』に由来します。監督のビクトル・エリセは、「蜂たちが従っているかのように見える、強力で不可思議な力」を表現するために、このタイトルを選びました。

撮影監督のルイス・カドラードは、この映画の撮影中に視力を失いました。

当初は成人したアナが過去を回想するという設定でしたが、上映時間を短縮する必要から、製作開始間近に設定が変更されました。

受賞

シカゴ国際映画祭 シルバー・ヒューゴ(1973年)
[サン・セバスティアン国際映画祭]] コンチャ・デ・オロ - [[ビクトル・エリセ]
[スペイン]]映画記者協会賞 最優秀作品賞／最優秀男優賞 - フェルナンド・フェルナン・ゴメス／最優秀監督賞 - [[ビクトル・エリセ]
Fotogramas de Plata, Madrid, Spain: 最優秀スペイン映画俳優 - アナ・トレント(1974年)
ラテン・エンターテイメント批評家協会賞 [映画]]部門: 最優秀女優賞 - アナ・トレント／最優秀監督賞 - [[ビクトル・エリセ]

エピソード

映画監督のガブリエラ・アマラウ・アウメイダは、この作品に影響を受けて『翳りゆく父』を制作しました。

脚注

乾英一郎『スペイン映画史』芳賀書店　1992年

外部リンク

BOWJAPAN
ミツバチのささやき - allcinema
ミツバチのささやき - KINENOTE
El espíritu de la colmena - オールムービー（英語）
The Spirit of the Beehive - IMDb（英語）
* The Spirit of the Beehive: Spanish Lessons an essay by Paul Julian Smith at the Criterion Collection

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