ミハイル・カリーニン

ミハイル・イヴァーノヴィチ・カリーニンは、1875年、ロシア帝国の農村で農民の子として生まれました。少年時代は地主のもとで働きながら学び、その後サンクトペテルブルクで旋盤工として働く傍ら、革命運動に参加します。1898年にはロシア社会民主労働党に入党、1903年の党分裂後はレーニン率いるボリシェヴィキに属しました。逮捕や追放を繰り返しながらも、革命運動に身を投じ続けたのです。

1919年、カリーニンは党中央委員に選出され、翌年にはスヴェルドロフの後任として全露中央執行委員会議長に就任、ソ連成立後はソ連中央執行委員会議長、そして最高会議幹部会議長を歴任します。これは事実上、ソ連の国家元首に当たる地位です。1924年には党中央委員会政治局員候補に、1926年には政治局員に選出されるなど、党内でも重要な役割を担いました。

レーニンはカリーニンを労働者や農民の事情に通じた人物と評価し、カリーニン自身も一般市民との接見を行い、彼らの声を聞くなど親しみやすい人物として知られていました。大粛清の時代には、数々の請願がカリーニンに寄せられ、彼は無実の人々を救うこともありました。そのため「親切な祖父」として人々から慕われましたが、一方で、大粛清やカティンの森事件の指令書に署名したという暗い側面も持ち合わせていました。

カリーニンの妻であるエカテリーナ・カリーニナは、トロツキスト容疑で強制収容所に送られるなど、カリーニン自身も大粛清の波から完全に無関係ではなかったのです。権力闘争から距離を保ち、名誉職として国家元首の地位にあったことが、彼を粛清から免れた要因の一つと言えるでしょう。しかし、彼の家族は迫害を受け、エカテリーナはスターリン死後の1954年にようやく名誉回復を果たしました。

カリーニンは、1946年、大腸癌のためモスクワで死去、クレムリンの壁墓所に埋葬されています。彼の死後、ヴォルガ川沿いの都市トヴェリは1931年から1990年まで「カリーニン」と改名され、1945年にはソ連領となったケーニヒスベルクがカリーニングラードと改名されるなど、カリーニンはソ連の歴史に大きな足跡を残しました。彼はソ連の建設に貢献した人物である一方、大粛清にも関与したという複雑な歴史的評価が避けられない人物と言えるでしょう。ソ連時代の権力構造や大粛清の恐ろしさを理解するためにも、カリーニンの生涯は重要な研究対象です。彼の生きた時代背景や政治的立場、そして彼を取り巻いた人々の運命を深く理解することで、より複雑で多角的な歴史像が見えてくるでしょう。

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