ミハイル・サルトィコフ＝シチェドリン

ミハイル・エヴグラーフォヴィチ・サルトィコフ＝シチェドリン（1826年1月27日 - 1889年5月10日）は、19世紀ロシアの卓越した風刺作家です。地主の家庭に生まれ、幼い頃から農奴制の非人間的な実態を目の当たりにして育ちました。この経験は、彼の文学作品における社会批判の根底をなしています。

生涯

サルトィコフ＝シチェドリンは、名門リツェイで教育を受け、文学評論家ベリンスキーの思想に強く影響を受けました。1844年に卒業後、官僚となりますが、社会改革を目指すペトラシェフスキーのグループに参加。1848年に発表した小説が当局に問題視され、地方への左遷を命じられます。この左遷が、逆にペトラシェフスキー事件への連座を免れることとなりました。1856年にペテルブルクへの帰還を許されますが、地方での職務を続けます。

この時期の経験を基に書かれたのが、小説『県の記録』です。この作品は、批評家たちから絶賛され、サルトィコフ＝シチェドリンの名を広く知らしめました。その後、リャザン県とトヴェリ県の副知事として農奴解放の実施に携わりましたが、官僚としての限界を感じ、1862年に職を辞します。

1863年から1864年にかけては、逮捕されたチェルヌイシェフスキーの跡を継ぎ、『同時代人』誌で反動勢力との論争を繰り広げます。1868年からは、『祖国の記録』誌を編集し、多くの作品を発表するとともに、若い作家たちの指導にもあたりました。1884年に同誌が廃刊となると、童話という形式で、警察国家、ジャーナリスト、ロシア正教会の僧侶などを痛烈に風刺しました。晩年は病魔に侵されながらも、執筆活動を続けました。

評価

サルトィコフ＝シチェドリンは、同じペトラシェフスキーのグループに属していたドストエフスキーとは対立関係にありました。しかし、ベリンスキーの後継者である啓蒙的な批評家たちからは、その作品の記録性と社会問題に対する革新的な姿勢が高く評価されました。

アナキストの思想家クロポトキンは、その著書『ロシア文学の理想と現実』の中で、シチェドリンの風刺がロシア社会の様々な階級の特徴を捉えている点を評価しつつも、検閲を意識して書かれた部分が回りくどく、冗長になっていると批判しています。

主な作品

サルトィコフ＝シチェドリンの代表作として、以下の作品が挙げられます。

『或る町の歴史』（1869-70年）：架空の都市を舞台に、官僚制や権力者の腐敗を風刺的に描いた作品。
『ゴロヴリョフ家の人々』（1875-80年）：没落貴族一家の悲劇を通して、地主階級の退廃を描いた作品。
『僻地の旧習』（1887-89年）：自身の幼少期を振り返り、農奴制の残酷さを描いた作品。
『童話』（1884年）：童話の形式を借りて、当時の社会を風刺した作品集。

これらの作品は、日本語にも翻訳されており、現在でも読むことができます。

日本語訳

日本語訳は、湯浅芳子訳の『ゴロヴリヨフ家の人々』をはじめ、西尾章二訳の『僻地の旧習』、『大人のための童話』、『ある市の歴史』などがあります。また、未来社からは『シチェドリン選集』全8巻が出版されています。近年では、『パーズヒンの死 四幕物の喜劇』や『専横行政官とその女たち』などの翻訳も刊行されています。

関連事項

サルトィコフ＝シチェドリンの作品は、日本の文学にも影響を与えています。例えば、井伏鱒二の『山椒魚』は、彼の作品からインスピレーションを得たと言われています。

サルトィコフ＝シチェドリンの作品は、社会の不条理を鋭く描いているだけでなく、人間の本質を深く考察するものでもあります。彼の作品を読むことは、現代社会を考える上で大きな示唆を与えてくれるでしょう。

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