ミモザの告白

ミモザの告白：閉鎖的な田舎町で芽生える友情と葛藤

『ミモザの告白』は、八目迷によるライトノベル作品で、くっかによる美しいイラストが彩りを添えています。ガガガ文庫より2021年7月から2024年6月にかけて全5巻が刊行され、2023年にはオーディオブックも配信されました。この作品は、日本の片田舎という閉鎖的な環境を舞台に、トランスジェンダーの女子高生・槻ノ木汐を中心に展開する青春物語です。

ストーリー：予想外の告白と揺れる心

主人公の紙木咲馬は、文武両道で容姿端麗な幼なじみ・槻ノ木汐と誰よりも親しい仲でした。しかしある日、汐はクラスメイトの前で「今日から女子としてやっていきます」と宣言します。この告白は、咲馬だけでなく、周囲の人々の心に大きな波紋を広げ、物語はそれぞれの葛藤と成長を描いていきます。閉鎖的な田舎町では、ジェンダーへの理解は乏しく、汐の選択は様々な反応を呼び込みます。

登場人物：個性豊かなキャラクターたち

物語を彩る登場人物たちは、それぞれが独自の個性と背景を持っており、汐の選択への反応を通じて、彼らの内面や価値観が明らかになります。

紙木咲馬: 閉鎖的な地元の空気に息苦しさを感じている高校生。クラスメイトの夏希に好意を抱いており、汐の告白によって揺れる気持ちと葛藤を描かれています。根は優しく、デリカシーに欠ける一面も魅力です。
槻ノ木汐: 咲馬の幼なじみで、本作のヒロイン。文武両道に優れ、容姿端麗な美少年として人気を集めていましたが、トランスジェンダーとして女子として生きることを選択します。著者は汐を「本作の中心に立っている存在」と位置付けており、読者全てに愛されるヒロイン像を目指して描かれています。
星原夏希: クラスの人気者で、誰にでも優しく接する明るい女子生徒。咲馬や汐にとって、そして物語全体にとっても重要な存在です。著者は夏希の明るさが物語に光を与えていると語っており、彼女の友達思いで感情豊かな性格は、物語に温かさを加えています。
西園アリサ: クラスの女王的存在で、女性として振る舞う汐を拒絶します。彼女の行動は、現代社会におけるジェンダーへの偏見や差別を象徴的に示しています。
* 世良慈: 東京から転校してきた生徒で、物語に変化をもたらすトリックスター的な存在です。

作風とテーマ：時代とジェンダーの狭間で

『ミモザの告白』は、一昔前の時代設定を採用することで、令和の時代には考えられないほどのジェンダーに対する偏見や差別が描かれています。この時代設定の中でトランスジェンダーのヒロインを据えることで、著者はジェンダーへの誤解や偏見、そして差別意識を浮き彫りにし、読者に改めて考えさせることを意図しています。

著者は当初、啓発的な物語ではなく「ボーイミーツガール」を軸にした物語を構想していましたが、センシティブなテーマを扱うことに葛藤を抱え、SF要素を加える試みもしました。しかし、最終的にはSF要素を取り除き、よりリアルで繊細な物語に仕上がっています。

制作背景：多様なインスピレーションと葛藤

著者は、映画や文芸作品、そしてTwitterなど、様々なコンテンツからインスピレーションを得て本作を創作しました。特に、過去数年にわたって目にしてきたLGBTに関する話題が大きな影響を与えていると語っています。当初はアイディアの手ごたえを感じながらも、センシティブなテーマをどのように表現するかに不安を抱えていたといいます。

登場人物は、ヒロインである汐への反応から逆算して作られました。汐を拒絶する者、受け入れる者、そして汐を好きになる者など、様々な反応を示すキャラクターを通して、それぞれの価値観や生き様が描かれています。

評価：高い評価と社会への反響

『ミモザの告白』は、『このライトノベルがすごい！2022』で高い評価を受け、総合新作部門2位、文庫部門4位を獲得しました。書評家・ライターのタニグチリウイチ氏はこの作品を高く評価し、ライトノベルという形式でセンシティブなテーマに正面から取り組んだ姿勢を称賛しています。また、タニグチ氏は『リアルサウンド』で発表した「2021年ライトノベル・ベスト10」においても、本作を6位に選出しています。

既刊一覧

『ミモザの告白』は全5巻で完結しており、各巻の詳細な情報は書籍の版元情報をご確認ください。

『ミモザの告白』は、青春、友情、そしてジェンダーという複雑なテーマを繊細に描き出した、忘れがたい物語です。閉鎖的な環境の中で、それぞれの葛藤と成長を描いた本作は、読者に多くの感動と深い余韻を残すことでしょう。

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