ザ・ミラージュ
アメリカ合衆国ネバダ州、煌びやかな
ラスベガス・ストリップに位置していた「ザ・ミラージュ(The Mirage)」は、その存在自体がラスベガスの歴史における重要な一頁を飾る
カジノホテルでした。
開業と影響
1989年、当時の金額で8億ドルという巨費を投じて、著名なデベロッパーであるスティーヴ・ウィン氏によって生み出されたザ・ミラージュは、南国の楽園を思わせるトロピカルなテーマで設計されました。これは、先行するテーマ型
ホテル、例えば
サーカス・サーカスや
シーザーズ・パレスなどの成功を引き継ぎつつも、その後の
ラスベガス・ストリップ全体のエンターテイメント複合施設化、すなわち「
テーマパーク化」の流れを決定的に加速させる触媒となりました。
画期的な設計思想とサービス
ザ・ミラージュの最も特筆すべき点は、当時の一般的な
カジノホテルの常識を覆す、顧客本位のサービス体制と設計思想にありました。それまでの多くの施設が、ゲストを可能な限り
カジノフロアに留め置き、他の施設へ移動させないことに主眼を置いていたのに対し、ザ・ミラージュは敢えて館内の
動線を工夫し、ゲストが
ホテル内だけでなく、ラスベガス全体を自由に楽しんで回れるような出入りのしやすさを重視しました。この「解放された」設計は、従来のハイローラー中心の顧客層に加え、家族連れを含む幅広い層のゲストを無理なく迎え入れることを可能にしたのです。多様な顧客ニーズに柔軟に対応することで生まれる相乗効果による安定的な運営を目指すこの考え方は、ザ・ミラージュ以降に建設された数多くの
ホテル・
カジノにおいて、その後の業界標準として広く採用されることになりました。
人気のアトラクション
ホテルの前庭では、無料で見られる迫力満点の「
火山ショー(The Volcano)」が毎晩開催されていました。炎と水の演出が組み合わされたこのショーは、宿泊客であるかに関わらず誰でも自由に観覧できたため、夕方から夜にかけての時間帯には多くの人々で賑わい、ミラージュの顔とも言えるアトラクションとして親しまれていました。
また、館内では長期にわたり、世界的に有名なエンターテイメント集団であるシルク・ド・ソレイユが、ビートルズの楽曲をテーマにした人気ショー「LOVE」を上演しており、多くの観客を魅了しました。
歴史の終焉、そして未来へ
長年にわたりラスベガスのランドマークとして君臨してきたザ・ミラージュですが、時代の流れとともに転換期を迎えます。2021年12月、それまで当施設を所有していたMGMリゾーツ・インターナショナルは、ハードロック・インターナショナルへの売却を発表しました。そして、2024年7月17日をもって、ザ・ミラージュはその名のままでの営業を終了しました。今後は、大規模な改装を経て、2027年5月までに全く新しい姿の「ハードロック・ラスベガス」として生まれ変わる計画が進められています。
ザ・ミラージュは、その革新的な設計とサービス、そしてエンターテイメントへの貢献を通じて、ラスベガスの発展に大きく寄与した、まさに一時代の象徴とも言える存在でした。その物理的な形は変わりますが、ラスベガスに与えた影響は、この街の歴史の中に確かに刻まれています。