ミラーハウス

ミラーハウス＆ガーデン

アメリカ合衆国インディアナ州コロンバスに佇むミラーハウス＆ガーデンは、20世紀中頃のモダンデザインを体現する建築と庭園の傑作です。単に「ミラーハウス」としても広く知られています。

プロジェクトの背景と歴史

この邸宅は、インディアナ州コロンバスの発展に寄与し、特に近代主義建築の擁護者であった実業家、慈善家、そして自らも建築家であったJ.アーウィン・ミラー氏とその妻、クセニア・サイモンズ・ミラー夫人の依頼により計画されました。ミラー氏は、コロンバス市内における多くの建築プロジェクトで近代デザインを推進し、その中で自身の住居としてこの革新的なデザインを選んだのです。

設計は高名な建築家エーロ・サーリネンが担当し、インテリアデザインにはアレキサンダー・ジラード、ランドスケープアーキテクチャにはダン・カイリー、そしてサーリネンの事務所で主任設計者を務めたケビン・ローチなど、20世紀デザイン界の主要人物たちがこのプロジェクトに集結しました。設計から完成まで約4年の歳月をかけ、1957年に竣工しました。その歴史的・芸術的な価値から、建物は2000年にアメリカ合衆国の国家歴史的建造物に登録されています。ミラー夫妻は、最後の住人であったクセニア夫人が2008年に亡くなるまでこの邸宅に居住しました。その後、2009年には邸宅の大部分の家具や庭園が、ミラー家からインディアナポリス美術館に寄贈され、現在は同美術館が所有し管理しています。

ランドスケープアーキテクチャ

ミラーハウスの庭園デザインは、ランドスケープアーキテクトのダン・カイリーが手掛けました。カイリーは、かつてサーリネンとセントルイスのゲートウェイ・アーチのプロジェクトで協働した経験があり、その信頼関係のもとでこの庭園が創造されました。

カイリーが目指したのは、庭園を単なる外部空間ではなく、家そのものの延長として捉えることでした。ただし、彼は邸宅の対応する部分に合わせてランドスケープを大きく三つのエリアに分け、それぞれに独自の性格を与えています。この庭園は、ヨーロッパの伝統的な整形式庭園が持つ対称性や幾何学的な形状といった要素を取り入れつつ、それを近代主義的な視点で再解釈した住宅庭園デザインの顕著な例とされています。

敷地は約13.5エーカー（約5.5ヘクタール）と広大で、西側をFlatrock川に、東側をワシントン通りに囲まれています。カイリーは、建物の周囲の空間造形に特に注力し、川へと続く広大な牧草地はあえて手を加えずに残しました。邸宅の西側に配置された植栽の多くは、雨や太陽光、風といった自然要素から居住空間を保護するための機能的な役割も兼ねています。

邸宅へのアプローチは、馬栗の木が並ぶ並木道（アリー）を通るエントリードライブです。この道は緩やかに蛇行し、訪問者を邸宅へと静かに導きます。これは、邸宅の入口や建物自体、あるいは周辺の家々よりも景観において過度に威圧的にならないようにというミラー夫妻の意向が反映されたものです。

敷地の東側、芝生の遥か遠方には、りんご畑が格子状に配されています。敷地の最東端には、樹木が千鳥状に植えられ、密度が高すぎない多孔質な境界としての生け垣を形成しています。邸宅の北側のガーデンエリアは、当初ハナズオウが植えられていましたが、後にセイヨウリンゴの一種に置き換えられました。南西のコーナーには、アーボビタエ（ニオイヒバ）の生垣に囲まれたスイミングプールが設けられています。

庭園デザインの中でも特に印象的な特徴の一つは、邸宅の西側に沿って伸びるハチミツの木のアリーです。この並木道は、牧草地とその先に流れる川の眺めを効果的にフレーム化し、絵画のような景観を生み出しています。アリーの両端には彫刻が配され、北端にはヘンリー・ムーア作「ドレープ横たわる女性」、南端にはジャック・リプシッツ作の浅浮き彫りが設置されています。ムーアの彫刻は、クセニア夫人の死後、2008年に設置されたものです。

ランドスケープの一部改修は、マサチューセッツ州ケンブリッジのマイケル・ヴァン・ヴァルケンバーグ・アソシエイツ社によって行われました。ハチミツの木のアリーも、改修の一環として2008年春に植え替えられています。

近代ランドスケープの集大成

ミラー邸の庭園は、ダン・カイリーをはじめとする1940年代頃から新しい庭園構成を積極的に試みてきたランドスケープアーキテクチャの先駆者たちの仕事の集大成と見なされています。彼らの試みの多くは、近代建築が確立した空間様式を、列植やボスク（整形式の樹林）といった植物による空間言語を用いて実現することでした。

建築の平面的な構成を植物で「読み替える」ことで生まれる、植栽特有の光と影のパターンは、当時の人々に新しい庭園の可能性を示唆しました。これは、列植が建築の列柱とは異なり、生け垣が壁体とは異なる性質を持つからです。例えば、落葉樹は季節によって葉の量を大きく変化させ、空間の透明性を移ろわせます。また、列植された木々は頭上に枝葉を広げ、平面的な区切りだけでなく、上空にも重層的な空間を創出します。こうした新しい樹木の配置は、単に目新しい構成を生み出しただけでなく、光と影が織りなす豊かな空間言語の可能性を開示し、建築単独ではなしえない、より動的で生命感あふれる近代空間表現を可能にしたのです。ミラー邸ガーデンは、こうした思想が結実した極めて重要な事例であり、その後のランドスケープデザインに大きな影響を与えました。

現在と価値

インディアナポリス美術館によって維持管理されているミラーハウス＆ガーデンは、現在、一般公開されており、予約制でツアーに参加することができます。20世紀半ばのモダニズム建築、インテリアデザイン、そしてランドスケープアーキテクチャが完全に一体となった稀有な事例として、デザインや建築を学ぶ人々、あるいは歴史的な名建築に触れたいと願う多くの訪問者を惹きつけています。それは単なる邸宅ではなく、時代の最先端をゆく思想と技術が集結した、生きたデザインミュージアムと言えるでしょう。

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