ミルコ・ケレメン

ミルコ・ケレメン

クロアチアが生んだ国際的な作曲家、ミルコ・ケレメン（Milko Kelemen）は、1924年3月30日にポドラヴスカ・スラチナで生を受け、2018年3月8日にその生涯を閉じました。彼は20世紀後半のクロアチア音楽界において中心的な存在であり、作曲家としてのみならず、音楽祭の創設者、そして教育者としても多大な功績を残しました。

経歴と業績

ケレメンは作曲技法を磨くため、ヨーロッパ各地で学びました。特に、パリでは革新的な音楽家オリヴィエ・メシアンに、またフライブルクではヴォルフガング・フォルトナーに師事し、自身の音楽言語を確立する上で重要な影響を受けました。

彼の最も特筆すべき業績の一つは、1959年に現代音楽の国際的な祭典「ザグレブ・ビエンナーレ」を創設したことです。この音楽祭は、世界中の前衛的な作曲家や演奏家が集う重要な場となり、ユーゴスラビア、そしてクロアチアを現代音楽の世界地図上に位置づける上で決定的な役割を果たしました。この文化的な貢献が高く評価され、ケレメンはドイツ連邦共和国功労勲章を受章しています。

作曲スタイル：シュトゥットガルト様式

ケレメンの作曲スタイルは、「シュトゥットガルト様式」と呼ばれる独自の特徴を持つとされています。この様式は、楽譜上の表記を過度に複雑にしたり、視覚的な要素を強調したりするのではなく、シンプルで明快な記述から、聴覚上は豊かで多層的な響きや複雑な効果を生み出すことを目指すものです。彼は、無闇に楽譜を難解にすることなく、音そのものの力によって聴き手に刺激を与えることを追求しました。この「楽譜を複雑化・絵画化しない」という思想は、後に続く世代、とりわけ著名な作曲家ヘルムート・ラッヘンマンなど、多くの後進の音楽家たちに影響を与えました。

作品

ケレメンの作品は非常に多岐にわたります。彼はオペラ、オラトリオ、管弦楽曲、室内楽曲、電子音楽、声楽曲など、様々なジャンルで作曲を行いました。彼自身が終生の代表作として挙げているのは、オペラ「アポカリプテイカ」やオラトリオ「月に今日は」といった大規模な声楽作品ですが、それ以外にも多くの重要な作品があります。

その他の代表作として、以下のような作品が挙げられます。

鏡（バレエ、1960年）
ロバが海岸を散歩してる（1961年）
10の色たち（1985年）
天国の柱（1986年）

これらの作品からも、彼の探求心と多様な表現への意欲がうかがえます。

教育活動

作曲家としての活動と並行して、ケレメンは音楽教育にも情熱を注ぎました。シュトゥットガルトの音楽教育機関で長年にわたり教鞭を執り、特に「現代楽器法」の指導にあたりました。彼のクラスからは、アドリアーナ・ヘルツキーをはじめとする、国際的に活躍する多くの優れた音楽家が輩出されています。ケレメンの教育者としての名声はドイツ国内に留まらず、アメリカなど海外からも彼のもとで学ぶためにシュトゥットガルトを訪れる学生が少なくありませんでした。彼は定年退官後もシュトゥットガルトに留まり、ディッター・クルツが指揮するヴィルテンベルギッシュ室内合唱団などとともに新作合唱曲の発表を行うなど、晩年まで創作活動と音楽界への貢献を続けました。

著書

ケレメンは音楽に関する著書も発表しています。

ストラヴィンスキーへの書き物
音響世界
* 他

これらの著作は、彼の音楽思想や作曲に対する考え方を知る上で貴重な資料となっています。

ミルコ・ケレメンは、現代クロアチア音楽の発展に貢献し、国際的な視野を持つ音楽家として、その名を歴史に刻んでいます。彼の創設したザグレブ・ビエンナーレは現在も続き、彼の作品や教育者としての影響力は、後世に受け継がれています。

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