ミルドレッド・ピアース

『ミルドレッド・ピアース』は、1945年に公開されたアメリカのサスペンス映画です。ジェームズ・M・ケインの同名小説を原作とし、マイケル・カーティスが監督、ジョーン・クロフォードが主演を務めました。クロフォードにとって、本作はMGMからワーナー・ブラザースへの移籍後初の主演作であり、アカデミー主演女優賞を受賞した記念すべき作品でもあります。

日本では長らく劇場未公開でしたが、『深夜の銃声・偽りの結婚』や『ミルドレッド・ピアース 深夜の銃声』といったタイトルでテレビ放映されたことがあります。2013年にはDVDが発売されました。

ストーリー

物語は、地元の名士モンティ・ベラゴンが射殺される事件から始まります。容疑者として逮捕されたのは、被害者の妻ミルドレッドの元夫バート・ピアース。しかし、ミルドレッドは「バートは犯人ではない」と断言します。彼女は、事件に至るまでの過去を語り始めます。

4年前、平凡な主婦だったミルドレッドは、夫バートの失業と浮気を機に彼を家から追い出します。二人の娘をこれまで通り裕福に育てたいと願うミルドレッドは職を探しますが、専業主婦だった彼女にはなかなか見つかりません。偶然入った大衆食堂でウェイトレスとして働くことになったミルドレッドは、その才能を発揮し、すぐに優秀なウェイトレスとなります。しかし、長女ヴィーダはそんな母親を恥じ、母親がレストランを経営するきっかけとなります。

友人ウォーリーの紹介で、富豪モンティが所有する物件を手に入れたミルドレッドは、レストランを開店します。モンティは彼女に惹かれ、二人は親密な関係になります。しかし、その直後、次女ケイが急病で亡くなってしまいます。

ミルドレッドのレストランは、ウォーリーと親友のベテランウェイトレス、アイダの協力もあり、順調に発展。3年後には5店舗を抱えるチェーン店に成長します。しかし、ヴィーダはモンティの贅沢な生活に憧れ、働く母親を見下すようになります。実はモンティは破産しており、彼の贅沢な生活はミルドレッドの財力によって支えられていました。ミルドレッドはヴィーダを堕落させたくないと、モンティに別れを告げます。

しかし、ヴィーダの奔放な生活は変わらず、金持ちの息子から嘘の妊娠で示談金を得たことを知ったミルドレッドは激怒し、ヴィーダを家から追い出します。その後、ヴィーダがウォーリーの酒場で歌手として働いていることを知ったミルドレッドは、ヴィーダを取り戻すために、モンティと結婚し、彼の屋敷を手に入れます。しかし、この結婚は愛のない契約に過ぎず、モンティはミルドレッドの会社の共同経営者となります。

ヴィーダを取り戻したミルドレッドは、これまで以上に贅沢な生活をさせますが、会社の経営は悪化。さらに、モンティが会社の株を売っていることを知ったミルドレッドは、モンティと対峙します。そこで目にしたのは、モンティと愛を交わすヴィーダの姿でした。ショックを受けるミルドレッドを尻目に、ヴィーダはモンティが愛しているのは自分だと告げます。ミルドレッドがその場を逃げ出すと、モンティはヴィーダを拒絶します。怒ったヴィーダは、ミルドレッドが落とした拳銃でモンティを撃ち殺してしまいます。

モンティ殺害の犯人として罪を着せられそうになったミルドレッドは、最終的に全てを告白します。しかし、ヴィーダの犯行が明らかになり、高飛びしようとしていたヴィーダは逮捕されます。それでもヴィーダを庇おうとするミルドレッドでしたが、ヴィーダの言葉で全てが明らかになり、憔悴し切ったミルドレッドはバートに支えられ、警察を後にします。

原作との違い

映画版では、原作にない殺人事件が加えられ、主人公が過去を回想する形で物語が展開します。また、原作では9年間の物語が、映画では4年間に短縮され、時代背景も変更されています。登場人物の名前や職業、設定なども一部変更されています。

キャスト

ジョーン・クロフォード：ミルドレッド・ピアース
ジャック・カーソン：ウォーリー・フェイ
ザカリー・スコット：モンティ・ベラゴン
イヴ・アーデン：アイダ・コーウィン
アン・ブライス：ヴィーダ・ピアース
ブルース・ベネット：バート・ピアース

スタッフ

監督：マイケル・カーティス
製作総指揮：ジャック・L・ワーナー
製作：ジェリー・ウォルド
脚本：ラナルド・マクドゥガル
* 音楽：マックス・スタイナー

リメイク

2011年には、HBOでテレビミニシリーズとしてリメイクされました。ケイト・ウィンスレットが主演を務め、映画版とは異なり、より原作に近い形で映像化されました。

『ミルドレッド・ピアース』は、一人の女性が家族のために奔走する姿を描いた、サスペンスドラマの名作です。複雑な人間関係、衝撃的な展開、そして母と娘の愛憎劇は、観る者の心を深く揺さぶります。

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