ミレトスのヒッポダモス

ミレトスのヒッポダモス：古代ギリシアの都市計画の先駆者

ミレトスのヒッポダモス（紀元前5世紀頃活躍）は、古代ギリシアの都市計画家、政治理論家、哲学者として知られています。歴史に残る最初の都市計画家とされ、その業績は後の都市計画思想に多大な影響を与えました。

アリストテレスの記録とヒッポダモスの思想

アリストテレスは自身の著作『政治学』において、ヒッポダモスの容姿や性格、そして都市計画理論について記しています。アリストテレスによると、ヒッポダモスは独創的な思考の持ち主で、1万人の市民が居住する理想都市を構想しました。この理想都市では、市民は兵士、聴人、農民の3階層に分けられ、土地も聖地、公有地、私有地の3つに区分されていました。

ヒッポダモスの都市計画における最大の特徴は、格子状のパターンを採用していた点です。この手法は「ヒッポダモス方式」と呼ばれ、古代後期からヘレニズム時代にかけて広く用いられました。しかし、この格子状プランは、アッティカ地方の中心都市では見られず、イオニア地方やヒッタイト、アッシリア、バビロニアなどの都市で既に用いられていたことが分かっています。そのため、ヒッポダモスを格子状都市計画の創始者と断定するのは難しいと考える研究者もいます。

ヒッポダモスの都市計画と社会概念

ヒッポダモスは、アテネでペリクレスと親交を持ち、ペリクレスの社会概念に影響を与えたと言われています。彼は、古代ギリシア都市の無計画さを批判し、機能的で整然とした都市計画の重要性を訴えました。彼の設計に関わったとされる都市は、いずれも機能的な構成を基本としており、その影響は後の都市計画にも見られます。

ヒッポダモスの社会概念は、将来像を詳細に描いたものではありませんでしたが、都市が理想的な社会秩序を具体的に形作るものだと認識した最初の思想家の一人と言えるでしょう。トゥリオイ（紀元前443年建設）の都市計画では、汎ヘレニズム世界の息吹を感じさせる要素も見られます。

実務者としてのヒッポダモス

ヒッポダモスは博識な人物でしたが、建築家や土木技師ではありませんでした。そのため、都市建設の実務に直接携わったという証拠はほとんどありません。ロドスの都市計画など、いくつかの計画では、彼の関与は限定的だったと考えられています。しかし、ペイライエウスの都市計画には大きく関与したとされており、アゴラを中心とした儀礼的な都市構造と格子状プランが特徴的です。

ヒッポダモスの主要な都市計画

ミレトスの新都市（紀元前479年頃開始）
ヒポダンカのアゴラ
ペイライエウス都市計画（現アテネ市内、紀元前475～450年頃）
プリエネとエリエントスの都市計画（ギリシャ）
トゥリオイ（現南イタリア、紀元前443年頃）
ロドス（紀元前408年頃）

参考文献

F．Castagnoli: Ippodamo di Mileto e l'urbanistica a pianta ortogonale, 1956
R．Martin: L'urbanisme dans la Grece antique, 1956
E．Egli: Geschichte des Städtebaus,vol.1, 1959

関連項目

ウィトルウィウス
ミレトスのイシドロス

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