ウィトルウィウス

ウィトルウィウス：西洋建築史における礎

マルクス・ウィトルウィウス・ポッリオ (紀元前80年/70年頃 - 紀元前15年以降) は、共和政ローマ末期から帝政ローマ初期にかけて活躍した建築家であり、建築理論家です。彼の名声は、主著である『建築について』(De Architectura、別名『建築十書』) によって築かれました。この書物は、現存する最古の建築理論書として知られ、ヨーロッパにおける最初の建築理論書である可能性も高いと言われています。

知られざる生涯と『建築について』

ウィトルウィウスの生涯については、残念ながら『建築について』以外の情報源が乏しく、出生、没年、家系など、多くの謎が残されています。しかし、彼の著作から、彼が経験豊富な建築家であったことは明らかです。アフリカ戦争に従軍し、カエサルやアウグストゥスに仕えた経歴も確認されています。『建築について』を著した目的は、自身の名声を高めるためであったと推測されていますが、彼の理論がローマ建築に与えた直接的な影響については、未だに議論の余地があります。

それでも、多くの建築史家は、ウィトルウィウスの理論が建築技術の基礎を築いたと評価しています。建物の種類、様式、材料、建設方法といった建築に関する様々な要素を体系的に分類した彼の試みは、土木工学、構造工学、建築技術、建築デザインといった多くの分野の創設に多大な影響を与えたと考えられています。

建築技術とデザインの関係性について、スティーブン・エミットは、それが啓蒙主義と産業革命期に遡ると指摘しています。この時代は科学技術の進歩が加速し、進歩への確信が強かった時代であり、技術の複雑化に伴い建築業界の細分化が始まったのです。ウィトルウィウスの体系的なアプローチは、こうした現代建築の基礎を築いたと言えるでしょう。

『建築について』の内容と影響

『建築について』はおそらく紀元前30年から紀元前23年の間に執筆されたと推定されています。この書物の中で最も重要な概念の一つは、建築の成功は、職人の技術や建物の形式だけでなく、建築家の仕事と社会との関連性に依存するという点です。「堅固さ、快適さ、美しさ」の三要素が優れた建築を構成するという考え方も、しばしばウィトルウィウスに帰せられますが、これが彼のオリジナルの理論なのか、翻訳者による解釈なのかについては、議論が必要です。

『建築について』が現代まで伝わっているのは、カール大帝によるカロリング朝ルネサンスのおかげです。多くの写本が制作され、その中の一つ（大英博物館所蔵のハーレイ写本2767番）が現代の標準的なテキストとなっています。中世においてもウィトルウィウスの理論は知られていましたが、ルネサンス期に特に注目され、新古典主義建築に至るまで、古典的建築の規範として大きな影響を与え続けました。

水車に関する記述

『建築について』には、水車に関する記述も見られます。古代ギリシャでは、水平に流れる小川の流れを利用する横向きの水車が使われていましたが、ウィトルウィウスは、滝のように水を落とすことでより強力な動力を得られる垂直型の水車について論じています。これはヨーロッパにおける垂直型水車の最初の記述であり、西洋における一般的な水車形式として現代まで受け継がれていることから、「ウィトルウィウス型水車」と呼ばれることもあります。

結語

ウィトルウィウスの『建築について』は、建築技術やデザインの体系的な理解を促し、西洋建築史に計り知れない影響を与えた画期的な著作です。彼の理論は、単に過去の遺物ではなく、現代の建築家や技術者にとっても、学ぶべき点の多い重要な文献であり続けています。その業績は、現代建築の礎を築いた先駆者としての彼の地位を確固たるものとしています。

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