ムールード・フェラウン

ムールード・フェラウン：植民地アルジェリアが生んだ作家

ムールード・フェラウン (1913年3月8日 - 1962年3月15日) は、アルジェリアの作家です。彼は、カビリー地方というアルジェリア北部の山岳地帯の貧しい家庭に生まれました。ベルベル人の一民族であるカビール人のフェラウンは、厳しい環境の中で育ち、小学校教員としての職務をこなしながら、情熱的に執筆活動を続けました。

生い立ちと教育

フェラウンの生家は、フランスによる植民地支配の影響を強く受けていました。1871年のカビリー地方における反乱の後、彼の家族はフランス語表記の戸籍を強制され、従来の姓から「フェラウン」という姓を名乗るようになりました。この経験は、後に彼の作品に反映されることになるでしょう。

1925年に初等教育を修了したフェラウンは、奨学金を得て高等小学校に進学、さらにアルジェ県の師範学校で教員免許を取得しました。師範学校時代には、後にフェミナ賞を受賞し、カミュの伝記作家としても知られるエマニュエル・ロブレスと出会い、生涯にわたる友情を築きました。ロブレスは、フェラウンがロシア文学、特にゴーゴリやドストエフスキーといった作家に強い影響を受けていたことを証言しています。一方、フェラウン自身は、モンテーニュやルソーといったフランスの古典作家にも強い関心を抱いていました。

教職と執筆活動

1935年、師範学校卒業後、フェラウンは故郷の小学校教員となりました。彼は教師として働きながら、1939年から自らの経験を基にした小説の執筆を開始しました。1950年、処女作『貧者の息子』を自費出版で発表。この作品は、アルジェ市文学大賞を受賞し、彼をアルジェリアのみならずフランスの文壇にも知らしめました。

続く1953年には第二作『大地と血』を発表。これは、植民地主義と文化変容の問題を鋭く描いた作品であり、フランスのポピリュスム小説賞を受賞しました。この作品では、フランスの炭鉱で働くアルジェリア人の移民労働者の生活や、フランス人女性と結婚したアルジェリア人の帰郷後の人生が描かれ、植民地支配下における文化的摩擦が浮き彫りにされています。1957年には三部作の最終作となる『上り坂の道』を発表。この作品もまた、カビリー地方を舞台に、文化の異同の中で葛藤する若者たちの姿を描き、大きな反響を呼びました。

アルジェリア独立戦争と暗殺

1954年、アルジェリア独立戦争が勃発しました。フェラウンは、アルジェリアとフランスの両文化に精通していたことから、両者の架け橋となる役割を期待されました。しかし、彼は植民地当局に加担することを拒否し、フランスの植民地支配に反対する立場を明確にしました。そのため、アルジェリアの独立に反対するフランス極右勢力から激しい迫害を受けました。

フェラウンは1955年から日記を書き始め、独立戦争下の状況や植民地主義の問題について独自の考察を残しました。彼の日記は、ポストコロニアル理論の研究においても重要な資料となっています。1962年3月15日、エヴィアン協定締結のわずか3日前、フランス極右組織OASによって、フェラウンは同僚たちと共に暗殺されました。

死後

フェラウンの死後も、彼の作品は広く読まれ続け、彼の業績を称える運動も活発に行われています。彼の著作は、アルジェリアとフランスの両国で版を重ね、翻訳も出版されています。2012年にはアルジェで国際シンポジウムが開催されるなど、彼の作品は現代においても高い評価を受けています。

フェラウンの生涯と作品は、植民地アルジェリアの複雑な歴史と文化を理解する上で重要な手がかりを与えてくれます。彼の作品を通して、私たちは植民地支配の残酷さや、異なる文化が共存する困難さ、そして人間の尊厳について深く考えることができるでしょう。

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