メイブル・ジョン

メイブル・ジョン

アメリカ合衆国のソウル・シンガー、メイブル・ジョンは、1930年11月3日にルイジアナ州で生を受け、2022年8月26日にその生涯を終えました。彼女は、1950年代後半から60年代にかけて活躍し、「フィーヴァー」などのヒット曲で知られるリトル・ウィリー・ジョンの実姉としても広く認識されています。彼女の音楽キャリアは、デトロイトを拠点とするモータウン・レコード、そしてテネシー州メンフィスのスタックス・レコードという、アメリカ音楽史において極めて重要な二つのレーベルでの活動が中心となりました。

彼女のキャリア初期において特筆すべきは、後に「ヒット製造工場」として世界に名を馳せることになるタムラ・モータウン・レコードとの関わりです。創設者であるベリー・ゴーディ・ジュニアがレーベルを立ち上げたばかりの黎明期に、メイブル・ジョンは最初の女性契約歌手として迎え入れられました。これは、モータウンがその後の巨大な成功へと向かう第一歩において、女性アーティストの育成を視野に入れていたことを示す象徴的な出来事と言えます。タムラ・レーベルからは、1960年に「Who Wouldn't Love a Man Like That?」と「(I Guess There's) No Love」をリリースし、翌1961年には「Actions Speak Louder Than Words」を発表するなど、初期のサウンド形成に貢献しました。これらの楽曲は、R&Bの枠にとどまらない幅広い魅力を持っていました。

1960年代後半になると、メイブル・ジョンはスタックス・レコードへと活躍の場を移します。スタックスは、よりファンキーでブルース色が強く、ライブ感を重視した「サザンソウル」サウンドで知られ、オーティス・レディングやサム＆デイヴといった偉大なアーティストを輩出していました。スタックスへの移籍は、彼女の力強く感情豊かな歌唱スタイルにとって新たな可能性を開くこととなりました。そして、このレーベルで彼女はキャリア最大のヒット曲を生み出します。

1966年にリリースされたシングル「Your Good Thing Is About to End」は、メイブル・ジョンの代表曲として、その名を音楽史に刻むこととなりました。この楽曲は、全米R&Bチャートで最高6位に達する大ヒットとなり、全米総合チャート（Billboard Hot 100）でも95位にランクインしました。この成功は、彼女がスタックス・サウンドと見事に融合したことを証明しました。同じ1966年には、スタックスからの唯一のアルバムとなる『Stay Out of the Kitchen』を発表しています。

スタックス時代には、「Your Good Thing Is About to End」以外にも精力的にシングルをリリースしました。1966年には「You're Taking Up Another Man's Place」を、1967年には「Same Time, Same Place」、「I'm a Big Girl Now」、「Don't Hit Me No More」を、そして1968年には「Able Mable」や「Running Out」といった楽曲を発表し、その存在感を維持しました。これらの楽曲は、彼女の歌唱力の幅広さと、当時のソウルミュージックの多様性を示しています。

メイブル・ジョンは、モータウンとスタックスという、音楽史における異なる魅力を持つ二つの巨大レーベルで重要な役割を果たした数少ないアーティストの一人です。モータウン初期の礎を築き、後にスタックスでサザンソウルの傑作を残した彼女の功績は、アメリカのR&Bおよびソウルミュージックの発展を語る上で欠かせません。ブルースに根ざしたその力強い表現力は、多くのリスナーに感動を与え続けています。

もう一度検索