メタノサルキナ属

メタノサルキナ属 (Methanosarcina)

メタノサルキナ属は、メタンを生成する能力を持つ古細菌の一群です。これらの微生物は、メタン生成古細菌として知られるグループの中でも、古くから研究されてきた歴史を持ちます。その発見は1930年代に遡り、メタン菌研究の初期段階から注目されていました。この属に属する古細菌は、非常に多様な環境に生息しており、淡水域の泥底や堆積物から、哺乳類の消化管に至るまで広く分布しています。特に、反芻動物の胃やメタン発酵槽といった、メタン生成が活発に行われる嫌気的な環境でしばしば見られます。

これらの古細菌の最も特徴的な点の一つは、その代謝基質の多様性にあります。多くのメタン生成古細菌が水素と二酸化炭素を利用してメタンを生成するのに対し、メタノサルキナ属はそれらに加えて、酢酸、メタノール、メチルアミン、メチルチオール、ギ酸、さらには一酸化炭素といった、より複雑な有機化合物もメタン生成の基質として利用できます。この幅広い基質利用能力は、彼らが様々な環境に適応し、生態系内で重要な役割を果たすことを可能にしています。例えば、メタン発酵においては、有機物の分解過程で生じる酢酸をメタンへと変換する主要な担い手の一つとなります。

メタノサルキナ属の形態もまた特徴的です。個々の細胞は基本的に球状ですが、多くの種ではこれらの球菌が集まって、まるで袋詰めされたような、サイコロ状や不規則な塊状の群体（サルキナ様構造）を形成します。この群体形成には、細胞の外側にある特殊な物質、メタノコンドロイチンが関与しています。これは動物組織に存在するコンドロイチン硫酸に化学的に似た構造を持つ多糖であり、細胞同士を結びつけ、強固な群体を作り上げる役割を担っています。属名である「Methanosarcina」は、この特徴的な形態に由来しています。ラテン語で「Methano」はメタンを、「Sarcina」は「包み」や「束」を意味し、「メタンを生成する包み状の微生物」といった意味合いが込められています。

栄養的には、メタノサルキナ属の古細菌は通性独立栄養または従属栄養として増殖することができます。これは、炭素源として二酸化炭素を利用する独立栄養的な方法と、有機物を利用する従属栄養的な方法のどちらでも生育できることを意味します。このような柔軟な栄養摂取様式も、彼らが多様な環境で生息できる要因の一つです。

さらに、メタノサルキナ属はゲノムサイズが大きいことでも知られています。記載されている古細菌の中では最大級のゲノムを持つものが含まれており、これは彼らの持つ幅広い代謝能力や環境適応能力を反映していると考えられます。例えば、特に研究が進んでいる種の一つであるMethanosarcina acetivorans C2A株のゲノムサイズは約575万塩基対（bp）に達し、約4540個のORF（Open Reading Frame：タンパク質をコードしていると予測される領域）を含んでいます。このゲノムは、解読された時点では全ての原核生物の中でも特に大きな部類に属していました。他の代表的な種であるM. barkeri（約484万bp）やM. mazei（約410万bp）のゲノムも解読されており、これらの情報からも、メタノサルキナ属が持つ代謝や生理機能の多様性が裏付けられています。

分類学的には、Methanosarcina barkeriが基準種とされており、他にM. acetivorans, M. baltica, M. lacustris, M. mazei, M. semesiae, M. siciliae, M. thermophila, M. vacuolataなど、複数の種が認識されています。これらの種は、生息環境や利用できる基質の種類などにおいて、それぞれわずかに異なる特徴を持っています。

このように、メタノサルキナ属はメタン生成古細菌として、その発見の歴史、多様な生息環境、幅広い代謝基質利用、特徴的な形態、そして大きなゲノムサイズといった点で非常にユニークな存在です。地球上の炭素循環においてメタン生成は重要なプロセスであり、特に酢酸からのメタン生成における彼らの役割は大きく、環境科学やバイオエネルギーの分野でも注目されています。

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