メタノバクテリウム綱

メタノバクテリウム綱（Methanobacteria）

メタノバクテリウム綱は、古細菌のユリアーキオータ門に含まれる一群であり、メタンガスを生成する能力を持つ、いわゆる「メタン菌」の一つです。学名に「バクテリア」と付きますが、これは命名上の慣習によるもので、生物学的には真正細菌（バクテリア）ではなく、古細菌（アーキア）に分類されます。

特徴と生理

この綱に属する微生物の多くは、グラム陽性に染色される桿菌（棒状の細胞）で、通常は運動性を持たないという特徴があります。エネルギー獲得の主要な経路は、水素（H₂）と二酸化炭素（CO₂）を基質として利用し、メタン（CH₄）を生成することにあります。このメタン生成の過程で得られるエネルギーを用いて増殖します。一部の種では、ギ酸やメタノール、あるいはプロパノールといった他の有機物もエネルギー源として利用できることが知られています。

細胞壁の特殊性

メタノバクテリウム綱の細胞壁は、シュードムレインと呼ばれる独特な構造の糖ペプチドで構成されています。このシュードムレインは、古細菌の中でもメタノバクテリウム綱と、これに比較的近い関係にあるメタノピュルス綱の生物のみが持つ特徴であり、他の古細菌や全ての真正細菌の細胞壁とは異なります。真正細菌の細胞壁の主成分であるムレイン（ペプチドグリカン）に構造は似ていますが、化学的な結合や構成成分に違いがあります。このシュードムレインの存在により、メタノバクテリウム綱の細胞は古細菌としては例外的にグラム陽性に染色されます。また、ムレインと同様に細胞に物理的な強度を与え、浸透圧の変化に対する耐性を持たせる働きがありますが、構造が異なるため、真正細菌の細胞壁合成を阻害するβ-ラクタム系抗生物質（ペニシリンなど）や、ムレインを加水分解するリゾチームといった酵素の影響を受けにくい性質を持っています。

生息環境と生態的役割

メタノバクテリウム綱の生物は、その種類によって非常に多様な環境から分離されています。例えば、メタノバクテリウム科のメンバーは、ヒトを含む脊椎動物やシロアリの消化管内部、深い地下水、下水処理施設、水田、湖沼の沈殿物など、比較的温度の低い場所から分離されます。一方、メタノテルムス科は、地熱活動が活発な熱水泉のような高温環境から見つかります。

これらの微生物は、嫌気的な環境（酸素がない、または極めて少ない環境）において、有機物の分解過程における最終段階を担う重要な役割を果たしています。複雑な有機物が他の微生物によって段階的に分解された後、メタノバクテリウム綱などのメタン菌が、生成された単純な分子（水素、二酸化炭素、酢酸など）を利用してメタンガスを生成します。これは自然界の炭素循環において不可欠なプロセスです。

また、人間の口腔や結腸にも生息しており、腸内古細菌の主要なグループの一つとして認識されています。人間の消化管から検出されるメタン菌のほとんどが、このメタノバクテリウム綱、特にメタノバクテリウム科に属しています。

近縁群との比較

細胞壁にシュードムレインを持つという点で共通するメタノピュルス綱とは、主に生育可能な温度域で区別されます。メタノピュルス綱の生物は、100°Cを大きく超える超好熱環境で増殖が可能ですが、メタノバクテリウム綱の耐熱性はそれほど高くありません。現在知られている中で最も高い生育温度を持つのは Methanothermus sociabilis で、その限界は約97°Cとされています。

下位分類

メタノバクテリウム綱の下位には、以下の目や科、属が知られています。

メタノバクテリウム目 (Methanobacteriales)
メタノバクテリウム科 (Methanobacteriaceae)
Methanobacterium (例: M. formicicum, M. bryantii)
Methanobrevibacter (例: M. ruminantium, M. smithii)
Methanosphaera (例: M. stadtmanae)
Methanothermobacter (例: M. thermautotrophicus)
メタノテルムス科 (Methanothermaceae)
Methanothermus (例: M. fervidus, M. sociabilis)

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