リゾチーム

リゾチーム：涙や卵白に含まれる抗菌酵素

リゾチーム（Lysozyme、別名：ムラミダーゼ）は、様々な生物の体液中に存在する酵素です。特に、ヒトの涙、鼻汁、唾液、母乳、そしてニワトリの卵白に多く含まれていることで知られています。この酵素の主な役割は、細菌の細胞壁を分解することによる抗菌作用です。

リゾチームの発見と性質

リゾチームは1922年、ペニシリンを発見したアレクサンダー・フレミングによって発見されました。その後、世界で初めてX線結晶構造解析によって三次元構造が解明された酵素としても有名です。

リゾチームの分子量は約14,307で、等電点は11.1～11.35とアルカリ性に偏っています。至適pHは5付近ですが、溶菌作用を見る場合は7付近となります。至適温度は約50℃です。ニワトリ卵白由来のリゾチームは129個のアミノ酸残基から構成されており、酸性アミノ酸よりも塩基性アミノ酸の方が多いという特徴があります。また、分子量に比してジスルフィド結合が多く含まれています。

リゾチームの作用機序

リゾチームは、細菌の細胞壁を構成するペプチドグリカンを分解することで抗菌作用を発揮します。ペプチドグリカンは、N-アセチルムラミン酸とN-アセチルグルコサミンがβ-(1→4)グリコシド結合で繋がった多糖類でできています。リゾチームはこのグリコシド結合を加水分解することで、ペプチドグリカンの構造を破壊します。

しかし、この作用は全ての細菌に有効というわけではありません。グラム陽性菌には効果を発揮しますが、グラム陰性菌には効果が低い傾向があります。これは、グラム陰性菌の細胞壁が、リポ多糖からなる外膜で覆われているため、リゾチームがペプチドグリカンに到達しにくいことが原因です。それでも、リゾチームによってペプチドグリカンの構造が破壊されると、グラム陰性菌の細胞壁も変形し、球状になります。

リゾチームの用途

リゾチームは、その抗菌作用を活かして、様々な用途に利用されています。

食品分野

食品添加物として、食品の保存性を高める目的で使用されています。特に、グリシンや有機酸と併用することで効果が高まるため、それらを組み合わせた製剤が食品メーカーに供給されています。

医療分野

以前は、塩化リゾチーム（リゾチーム塩酸塩）が医薬品として風邪薬や副鼻腔炎の治療薬などに使用されていましたが、有効性が確認できないとして、2016年に製造販売が中止されました。 また、消炎酵素製剤として用いられた例もありましたが、有効性の確認が取れず、自主回収されたケースもあります。ただし、一部の国ではサプリメントとして販売されているものもあります。

まとめ

リゾチームは、自然界に広く存在する抗菌酵素であり、食品や医薬品への応用も検討されてきました。しかし、その有効性については継続的な検証が必要です。今後の研究によって、リゾチームの新たな利用法が発見される可能性もあります。

もう一度検索