メチルパラチオン

メチルパラチオン：高い殺虫力と毒性を併せ持つ有機リン系化合物

メチルパラチオンは、有機リン系化合物に分類される殺虫剤です。無色または白色の結晶状固体で、パラチオンメチルという別名でも知られています。その化学構造はパラチオンと類似しており、殺虫効果においてはパラチオンを上回るとされています。しかし、パラチオンよりも不安定で分解しやすいという性質を持つため、農薬としての利用はパラチオンに比べて限定的でした。

使用と登録失効

日本では1952年に農薬として登録され、「ホリドール」などの商品名で販売されました。稲の害虫であるニカメイチュウ、カメムシ、ウンカ、そして果樹に発生するアブラムシやハマキムシへの防除に使用されてきました。しかし、その高い毒性と環境への影響を懸念し、1971年には登録が失効しています。

毒性と規制

メチルパラチオンは、人体に対して高い毒性を示す物質です。パラチオンの約3分の1程度の毒性とされていますが、それでも摂取した場合の危険性は無視できません。許容量を超える摂取は、最悪の場合、死に至る可能性があります。その高い毒性から、世界保健機関（WHO）では最も危険な毒性等級（Ia）に分類され、ロッテルダム条約においても極めて有害な物質として指定されています。現在、世界中のほとんどの国で販売および輸入は禁止されており、ごく一部の国で限定的な条件下でのみ取引が許可されている状況です。

関連事件

メチルパラチオンは、いくつかの重大な事件と関連して注目を集めました。2008年には、中国産の冷凍食品からメチルパラチオンが検出されたことが判明し、大きな社会問題となりました。これは、食品の安全性に対する懸念を高める結果となりました。

また、2017年には、暗殺された北朝鮮の金正男氏の遺体からメチルパラチオンが検出されたと一部報道されました。しかし、マレーシア警察による最終的な発表では、殺害に使用されたのはVXガスであると結論付けられています。当初、成分構造からメチルパラチオンの可能性が示唆されていましたが、より詳細な分析の結果、VXガスであると断定されたのです。この事件は、メチルパラチオンの毒性と、化学兵器としての利用可能性を改めて認識させる出来事となりました。

パラチオンとの比較

メチルパラチオンとパラチオンは、化学構造が類似しており、どちらも高い殺虫効果を持つ有機リン系化合物です。しかし、メチルパラチオンはパラチオンよりも不安定で分解しやすいという特徴があります。この違いが、農薬としての利用における差や、環境への影響に影響を与えていると考えられます。また、毒性についても、メチルパラチオンの方が若干低いとされていますが、いずれも人体にとって危険な物質であることに変わりはありません。

まとめ

メチルパラチオンは、高い殺虫効果を持つ一方で、高い毒性も併せ持つ有機リン系化合物です。その毒性と環境への影響から、世界中で使用が厳しく制限されています。食品汚染や暗殺事件への関与など、社会問題との関連も深く、その取り扱いには細心の注意が必要です。 今後も、その毒性や安全性に関する研究、そして適切な管理体制の確立が重要となるでしょう。

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