メトロポリタン歌劇場管弦楽団

メトロポリタン歌劇場管弦楽団（The Metropolitan Opera Orchestra）は、アメリカ合衆国の文化の中心地の一つ、ニューヨーク市に拠点を置く、世界的に著名なオーケストラです。このオーケストラは、同市にある世界最高峰のオペラハウス、メトロポリタン歌劇場に専属しており、劇場でのオペラやバレエ公演における演奏を一手に担っています。オーケストラとして単独でコンサートを行う際には、「MET管弦楽団（The MET Orchestra）」という名称で活動することもあります。

歴史と活動の変遷

母体であるメトロポリタン歌劇場は、1883年にその歴史を開始しました。当初から付属のオーケストラは存在していましたが、現在の活動拠点であるリンカーン・センター内のメット・ハウスに移転したのは1966年のことです。この移転は、METの劇場としての設備や規模を大きく向上させると同時に、オーケストラの活動環境にも変化をもたらしました。

オーケストラの主要な活動は、創設以来、メトロポリタン歌劇場で行われる年間を通じてのオペラやバレエの多彩な演目の伴奏演奏でした。しかし、ジェームズ・レヴァインがその指揮者陣に加わり、やがて音楽監督という重要なポストに就いて以降、その活動の範囲は大きく広がりました。レヴァインは、オペラ上演におけるオーケストラの演奏水準を極限まで高める一方で、オーケストラ単独でのシンフォニー・コンサートの開催にも極めて積極的に取り組みました。これは、オペラ専門のオーケストラが、コンサート・オーケストラとしてもその実力を世界に知らしめるという点で画期的なことでした。「MET管弦楽団」としての定期的なコンサート活動は、オーケストラの知名度と評価を飛躍的に高め、その活動を多角的なものとしました。

歴代の音楽監督たち

メトロポリタン歌劇場では、長らく「常任音楽監督」というポストは存在しませんでした。この役職が初めて設けられたのは1972年のことで、チェコの巨匠ラファエル・クーベリックが初代音楽監督に就任しました。クーベリックは1974年までの短期間でしたが、METに新たな風を吹き込みました。

クーベリックの後任として、メトロポリタン歌劇場の歴史上、最も長く、そして最も影響力のあるリーダーとなったのがジェームズ・レヴァインです。レヴァインは1973年に首席指揮者としてMETでのキャリアをスタートさせ、1976年には音楽監督に昇格しました。1986年から2004年までの18年間は音楽監督と芸術監督を兼任し、METの運営と芸術活動の両面で絶大な権限を持ちました。その後も2004年から2016年まで音楽監督を務め、さらに2016年から2018年までは名誉音楽監督の称号を得るなど、実に1973年から2018年までの45年間、メトロポリタン歌劇場の中心的存在として活動しました。レヴァインの時代は、オーケストラの演奏水準が飛躍的に向上し、幅広いレパートリーに取り組み、数々の名舞台と録音を生み出した黄金期として記憶されています。

レヴァインの長期政権の後、ファビオ・ルイージが2011年から2017年まで首席指揮者を務め、METの公演を支えました。そして、2018年からはカナダ出身の俊英ヤニック・ネゼ＝セガンが新たな音楽監督として就任し、MET管弦楽団のさらなる発展を牽引しています。

録音活動

メトロポリタン歌劇場管弦楽団は、その長い歴史の中で、数多くの録音も残しています。特に、ジェームズ・レヴァインの指揮による主要なオペラ全曲録音は、レパートリーの広さと演奏の質の高さで知られ、ディスクとして広く流通しています。オペラの分野だけでなく、ベートーヴェンの交響曲やリヒャルト・シュトラウスの管弦楽曲といったコンサート作品もレヴァインの指揮で録音されており、オーケストラのシンフォニックな実力を示しています。また、オペラの録音としては、伝説的な指揮者レナード・バーンスタインが指揮したビゼー作曲のオペラ『カルメン』も歴史的な名盤として挙げられ、今なお多くの音楽ファンに聴かれています。

まとめ

メトロポリタン歌劇場管弦楽団の最大の特色は、世界最高水準のオペラ上演を支える演奏力と、オーケストラ単独でのコンサート活動で培われたシンフォニックな表現力を併せ持っている点にあります。日々のオペラ公演で歌手と共に呼吸し、劇的な表現を追求する経験は、シンフォニー演奏にも独自の深みと柔軟性を与えています。ヤニック・ネゼ＝セガンのもと、この稀有なオーケストラが今後どのような音楽を創造していくのか、世界中から注目が集まっています。

もう一度検索