メルク (ドイツ)

メルク(Merck KGaA)：世界最古の医薬品・化学品メーカーの軌跡

1668年、ドイツ・ダルムシュタットで創業したメルク(Merck KGaA)は、世界で最も歴史の長い医薬品・化学品メーカーとして知られています。現在も創業家であるメルク家が株式の70％を保有し、一族経営が続けられている点が大きな特徴です。

歴史：薬局からグローバル企業へ

メルクの歴史は、フリードリッヒ・ヤコブ・メルクが薬局「天使薬局」の経営権を取得したことに始まります。その後、アルカロイドの調合に成功するなど、研究開発を重視する企業へと進化。19世紀後半には、ロンドン、ニューヨーク、モスクワなど海外にも拠点を展開し、グローバルな事業基盤を築き上げました。

しかし、第一次世界大戦後、ドイツ国外の多くの事業拠点は連合国に接収され、アメリカ合衆国ではメルク（Merck & Co.、メルク・アンド・カンパニー）が独立企業としてスタートしました。両社は現在、それぞれ独立して経営されており、メルク（Merck & Co.）は北米で「メルク」の名称を使用し、それ以外の地域では「MSD」を名乗っています。

メルク(Merck KGaA)は1995年に株式を一部公開し、フランクフルト証券取引所に上場。現在も約70％の株式はメルク一族が保有しており、一族は「E・メルク・KG」というファミリー企業を通じて、大型投資案件や役員報酬の決定など、経営の重要な意思決定に関与しています。一族の株の譲渡は一族内での売買か相続のみで、新規参入者は研修を受ける必要があります。

事業内容：多様な分野への展開

メルク(Merck KGaA)は、医薬品と化学品の両分野で事業を展開しています。化学品分野では、液晶や有機EL関連材料、自動車塗装や化粧品向けのパール顔料、ライフサイエンス関連試薬、バイオテクノロジー産業向け特殊化学品などを製造・販売しています。

医薬品分野では、子会社であるメルクセローノが、癌、神経変性疾患、不妊治療、内分泌疾患、自己免疫疾患、心血管/代謝疾患領域の治療薬を販売しています。

近年は積極的なM&A戦略を展開し、ミリポア（Millipore）、AZエレクトロニックマテリアルズ、シグマ アルドリッチ、バーサムマテリアルズなどを買収。特に半導体事業を強化し、メルクエレクトロニクス部門を設立、半導体材料、有機EL材料、液晶材料を中心に事業を拡大しています。

日本における事業

日本においては、メルク株式会社とメルクバイオファーマ株式会社の二社体制をとっています。メルク株式会社は化学品事業、メルクバイオファーマ株式会社は医薬品事業を担当しています。

メルク株式会社は、液晶材料の主要サプライヤーとして知られ、約700名の従業員を雇用。ミリポアやAZエレクトロニクス買収による事業統合も行っています。メルクバイオファーマ株式会社は、主に癌、不妊症、内分泌・代謝領域の治療薬の開発・販売を行っています。

過去にはメルク製薬株式会社も存在していましたが、ジェネリック医薬品事業の売却に伴い、現在は存在していません。

まとめ

メルク(Merck KGaA)は、400年近くにわたる歴史と一族経営という独特の企業文化を持ちながら、積極的にM&A戦略を展開し、化学・医薬品分野で世界的な存在感を保ち続けています。今後も、イノベーションとグローバル展開を通じて、さらなる成長が期待されます。

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