メルセデス・ベンツ・SSKL

メルセデス・ベンツ SSKL：世界恐慌下のレーシングマスターピース

1931年、ダイムラー・ベンツによって生み出されたメルセデス・ベンツSSKL（W06 RS）は、伝説的なレーシングカーSSKの後継モデルとして開発されました。しかし、その誕生には世界恐慌という逆境が影を落としていました。

誕生の背景：ライバルへの対抗と世界恐慌

SSKは優れた性能を誇りましたが、ブガッティ・タイプ35やアルファロメオP2といった軽量で高出力なライバル車種に苦戦していました。そこでダイムラー・ベンツは、SSKを軽量化し、出力を向上させたSSKLの開発に着手しました。しかし、1929年に始まった世界恐慌はダイムラー・ベンツにも大きな打撃を与え、1930年には売上高が前年の半分にまで減少。同社はモータースポーツ活動の中止を決定し、SSKLの開発計画も白紙に戻されました。

しかし、ワークスチーム監督だったアルフレート・ノイバウアの熱意により、SSKLの開発は限定的に継続されることになります。本社からの支援は削減されましたが、ごく少数のプライベーター向けに供給されることになったのです。

希少な製造台数と豪華なオーナーたち

SSKLは一般には販売されず、カタログにも掲載されませんでした。価格は4万ライヒスマルクと、SSKよりも高価に設定されました。正確な製造台数は不明ですが、最初からSSKLとして製造された車両は4台と考えられています。

このうち2台はワークスチームに所属し、ルドルフ・カラツィオラとハンス・シュトゥックといった名ドライバーがレースで使用しました。残りの2台は、バルテンシュタイン伯爵とハンス・フォン・ツィンマーマン男爵が所有し、それぞれ自家用車やマンフレート・フォン・ブラウヒッチュ（当時駆け出しのレーシングドライバー）によるレース参戦に使用されました。

SSKLという名称と仕様

「SSKL」は「Supersport Kurz Leicht」（超スポーツ・ショート・軽量）を意味し、SSKに「軽量版」を意味する「L」を加えたものです。製造当時は「SSK Model 1931」と呼ばれていましたが、「SSKL」という名称が正式に用いられるようになったのは1932年です。エンジンの仕様を表す名称としては「27/240/300PS」が用いられます。

革新的な軽量化技術と高出力エンジン

SSKLはSSKと比較して約200kgの軽量化を実現しました。これは、車体各所に軽量化のための穴を開けるという、合併前のベンツ社で用いられていた手法によるものです。開発責任者ハンス・ニベルの経験が活かされたと言えるでしょう。

エンジンはアルベルト・ヘスが担当し、圧縮比の向上やスーパーチャージャーの改良によって出力が向上しました。また、ステアリングコラム下のレバーでスーパーチャージャーのオン・オフ操作を可能にするなど、操作性の向上も図られました。

SSKLストリームライナー：空力性能の追求

SSKLストリームライナーは、高速走行のための流線型ボディを備えたSSKLです。空気力学の専門家、ラインハルト・フォン・ケーニッヒ＝ファクセンフェルトによって設計されたボディは、最高速度251km/hに達したとされています（通常のSSKLの最高速度は232km/h）。

特にマンフレート・フォン・ブラウヒッチュが1932年のアヴスレンネンで使用したストリームライナーは有名ですが、少なくとも2種類のボディ形状が存在したとされています。車体後部の形状が異なり、ひとつは車体底部が大きく跳ね上げられた形状で、もうひとつは上面がなだらかに下向きに絞られた形状です。後者は高速走行時のハンドリングに問題があったと考えられています。

輝かしいレース戦績

SSKLは1931年のミッレミリア、アイフェルレンネン、ドイツグランプリ、アヴスレンネンで優勝を飾りました。また、カラツィオラはSSKLでAIACRヨーロッパヒルクライム選手権（スポーツカー部門）でチャンピオンを獲得し、翌1932年にはシュトゥックがSSKLで同選手権のタイトルを獲得しています。

現存車両とレプリカ

ワークスチームで使用された2台のSSKLのうち少なくとも1台は1944年には存在が確認されていますが、その後は消息不明となっています。ダイムラー（当時）も長年現存車両を保有していませんでしたが、2010年代には過去の資料に基づいてSSKLストリームライナーのレプリカが製作されました。

SSKLは、世界恐慌という逆境の中でも、その高い性能と希少性から、今もなお多くの自動車愛好家を魅了する伝説的なレーシングカーです。その技術革新とドラマティックな歴史は、自動車史に燦然と輝く一頁を刻んでいます。

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