メンズーア

メンズーア：ドイツ学生文化における決闘

メンズーア（独: Mensur）は、19世紀のドイツを中心とした大学で流行した学生間の決闘です。単なる暴力行為ではなく、学生の通過儀礼や一種の腕試しとして位置づけられていました。オーストリアやスイスでも同様の記録が残っています。

概要

メンズーアは、互いに剣（またはそれに準ずるもの）を持ち、フェンシングのような形式で戦う決闘です。相手を殺傷することを目的とはせず、一定の負傷や出血が見られた時点で終了となります。決闘に際しては、剣の刃をアルコール消毒し、ルールに則って行われました。レフェリー役や医学の講師が立ち会い、安全面にも配慮されていました。

メンズーアは、学生間の口論や喧嘩が発端となることが多く、「この馬鹿たれ小僧！」（Du bist ein dummer Junge!）という合言葉が決闘の申し込みとして用いられました。1850年代以降は、学生団体同士が体力的に同等の参加者を斡旋する制度が確立し、大学によっては、複数の学生団体の幹部が互いの構成員同士を決闘させることもありました。

学生がメンズーアを経験する回数は個人差が大きく、全く経験しない者もいれば、数十回に及ぶ者もいました。中には、在学中に100回もの決闘を経験した学生も存在します。参加は原則として自由でしたが、学生団体によっては半ば強制的に参加させられるケースもありました。特に郷友会では、新入生に最低1回のメンズーアを義務付けていることが多かったようです。メンズーアを経験した学生は、軍隊で優遇され、早期昇進の道が開かれることもありました。

歴史

ヨーロッパにおいては、中世から近世にかけて名誉を重んじる決闘が盛んに行われており、大学も例外ではありませんでした。当初はレイピアを用いた決闘が主流でしたが、無秩序な決闘は重傷者や死者を出すことも少なくありませんでした。17世紀に入ると、決闘のあり方を見直し、規律に基づいた形式へと移行する動きが起こりました。具体的な改善点としては、決闘の日時や場所を事前に協議すること、和解の機会を設けること、危険な攻撃方法を禁止すること、審判を立てて公正性を担保することなどが挙げられます。また、万が一の事態に備え、医師を待機させるようになりました。

しかし、決闘による危険性や弊害は依然として存在し、18世紀後半にはオーストリアやプロイセンで決闘を禁止する法令が出されましたが、いずれも形骸化しました。ドイツのメンズーアは、このような流れの中で制度化されていきました。当初は敵の身体を突き刺す攻撃が主流でしたが、危険性が高いため、斬り付ける方式に改められました。学生決闘に対しては、危険性を指摘する声もありましたが、若者の勇敢さや騎士道精神を育むという肯定的な意見も根強く存在しました。

ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世も、学生決闘は人格形成に役立つとして奨励しました。1871年には、ドイツ刑法に決闘を処罰する規定が設けられましたが、メンズーアは教育的意義や安全性への配慮から容認されました。しかし、ナチス政権下では野蛮な行為とみなされ、法律で禁止されました。1950年代頃に一部復活し、現代でもメンズーアの流れを汲む慣習が残る地域があります。ドイツの刑法学の解説書では、同意傷害の事例としてメンズーアが引き合いに出されることもあります。

参考文献

山田勝 『決闘の社会文化史 ヨーロッパ貴族とノブレス・オブリジェ』 北星堂書店、1992年。
望田幸男、村岡健二 『近代ヨーロッパの探究4 エリート教育』 ミネルヴァ書房、2001年。
菅野瑞治也 『実録　ドイツで決闘した日本人 』 集英社新書、2013年。

関連項目

決闘
ブルシェンシャフト
オットー・スコルツェニー - 彼の顔の傷はメンズーアによるものです。

もう一度検索