ブルシェンシャフト

ブルシェンシャフト：ドイツ学生運動の光と影

19世紀初頭、ナポレオン戦争後のドイツにおいて、学生たちの間で活発な政治運動が展開されました。それがブルシェンシャフト（Burschenschaft）です。ブルシェンシャフトとは、直訳すると「少年たちの共同体」を意味し、自由主義的な理想を掲げた学生結社連合でした。

自由主義とナショナリズムの高まり

ナポレオン戦争下でフランスの支配を受けたドイツ諸邦では、民族意識の高まりが顕著でした。フィヒテの演説「ドイツ国民に告ぐ」などがその象徴です。戦争でフランスと戦った学生たちは、戦後のウィーン体制に強い反感を抱きました。ウィーン体制は、ドイツ諸邦の連合体であるドイツ連邦を形成しましたが、ドイツ民族の統一という理想とはかけ離れたものでした。

この状況下で、イェーナ大学やギーセン大学を中心に、学生たちが結社を結成し始めます。彼らはドイツの自由主義的な改革と統一を訴え、政治運動を展開しました。しかし、ブルシェンシャフト運動は複雑な側面を持っていました。ドイツ統一や旧体制の打破を訴える政治運動と、学生生活の改善運動という二つの側面が混在していたのです。決闘や暴飲暴食といった悪習を改め、より規律ある学生生活を目指すという側面もあったのです。

1815年、イェーナ大学で最初のブルシェンシャフトが結成されました。この名称は、フリードリヒ・ルートヴィヒ・ヤーンによって提案されたと言われています。

運動の隆盛と弾圧

1817年のヴァルトブルク城での宗教改革300年祭では、多くの学生が集まり、民族主義的な熱狂が高まりました。翌年には、各地の学生結社が全ドイツ・ブルシェンシャフトとして結束を強め、ドイツ諸邦の君主たちから警戒されるようになります。

特にオーストリアのメッテルニヒ首相は、ブルシェンシャフト運動を危険視し、弾圧に乗り出しました。1819年、ブルシェンシャフトの急進派が保守的な劇作家コッツェブーを暗殺する事件が発生します。これを機に、メッテルニヒは諸邦の代表を集め、カールスバート決議においてブルシェンシャフトに対する弾圧を決定しました。この決議は、ドイツ連邦における主権国家の連合体という理念が形骸化していることを示すものでもありました。

しかし、弾圧にもかかわらずブルシェンシャフトは地下組織として活動を続け、1848年革命にも積極的に関与しました。自由主義的なドイツ統一を目指したフランクフルト国民議会にも、ブルシェンシャフト関係者が議員として参加しています。

20世紀以降

ドイツ統一後、ブルシェンシャフトは様々な政治的傾向を包括する存在となりました。しかし、20世紀前半には、反ユダヤ主義や共和制への反対といった、以前の自由主義的な要素を失い、ナチズムに傾倒する者も少なくありませんでした。第二次世界大戦後、非ナチ化のプロセスを経てブルシェンシャフトは再建されましたが、現在でも右翼とのつながりを指摘する声があり、オーストリアの自由党やドイツのための選択肢などの政党に、ブルシェンシャフト出身者が参加していることが知られています。

ブルシェンシャフトの複雑な歴史的意義

ブルシェンシャフトは、ドイツの自由主義運動とナショナリズムの高まり、そしてその後の弾圧という複雑な歴史を象徴する存在です。その活動は、ドイツの統一や民主化に貢献した側面もあれば、反ユダヤ主義や極右思想につながる側面もあったと評価できます。ブルシェンシャフトの歴史を理解することは、ドイツの歴史、ひいてはヨーロッパの歴史を理解する上で欠かせません。

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