メーヌ・オセアン

『メーヌ・オセアン』（Maine Océan）は、1986年に公開された、フランス発のコメディ映画です。寡作で知られるジャック・ロジエ監督が10年の沈黙を破り、満を持して世に送り出した長編第4作目にあたります。60歳という年齢で、本来は若手監督に贈られるジャン・ヴィゴ賞を受賞したという、異色の経歴も持つ作品です。

出演は、アカシオ・デ・アルメイダやルイス・レゴなど実力派俳優が名を連ねています。ブラジル出身のショーダンサーや、フランスの女性弁護士、そしてフランス国鉄の検札係など、個性豊かな登場人物たちが織りなす、予想外の出来事が次々と巻き起こる物語です。

日本ではかつて『メーヌ・オセアン号』のタイトルで公開されていましたが、2010年の特集上映「ジャック・ロジエのヴァカンス」では『メーヌ・オセアン』の題名で上映されました。この特集上映では、東京・渋谷のユーロスペースにて2010年1月23日から4週間にわたり、毎日1回の上映が行われ、同年3月にはアンコール上映も実施。その後、全国へと順次公開の輪が広がっていきました。

物語は、フランス西部の都市ナントへ向かう列車「メーヌ・オセアン号」から始まります。列車内で出会った国鉄の検札係、ル・ガレックとリュシアンは、ブラジル人ダンサーのデジャニラと女性弁護士のミミと遭遇。些細なことから騒動が勃発しますが、リュシアンの機転によって事なきを得ます。

途中駅であるアンジェで、漁師プチガの弁護を依頼されていたミミは、意気投合したデジャニラを誘い、海へ行く計画を立て、共にアンジェで下車します。しかし、プチガの裁判は、プチガ自身の態度とミミの不可解な弁論によりあっけなく敗訴。ミミとデジャニラは、列車でサーブルに向かう途中、リュシアンと再会し、リュシアンの誘いもあって、プチガの住むユー島への旅行を決意します。リュシアンはさらに、同僚であるル・ガレックにもユー島への同行を呼びかけます。

ユー島に到着したリュシアンとル・ガレックは、ミミとデジャニラと合流し、そこに偶然にもプチガが現れます。メーヌ・オセアン号でのル・ガレックの態度について、ミミとデジャニラから悪口を聞いていたプチガは、ル・ガレックに詰め寄って喧嘩を始めます。止めに入ったリュシアンは軽い怪我を負ってしまいますが、この出来事をきっかけにプチガは反省し、酔いに任せてル・ガレックを気に入ってしまうという展開に。

そこに、ニューヨークからデジャニラの雇い主である興行主ペドロ・マコーラが現れ、思わぬことから市民会館で盛大な祝宴が開かれることになります。

翌朝、デジャニラがプチガと船で出かけたことを知ったマコーラは、ル・ガレックを「現代のモーリス・シュヴァリエ」と持ち上げ、ニューヨークへ連れていくと言い出します。最初は乗り気ではなかったル・ガレックも、マコーラの巧みな話術にまんまと乗ってしまいます。しかし、飛行機が飛び立つ直前、デジャニラが現れ、ル・ガレックは彼女にからかわれていただけだったことに気づかされます。

本来ならば、翌朝10時26分発のナント行きの列車に乗務しなければならないル・ガレックは、必死にナントへ向かおうとしますが、既に船便もなくなっており、プチガに頼んで船で送ってもらうことになります。幾度もの船の乗り継ぎを経て、ようやく海岸に辿り着いたル・ガレックは、海岸を全力で走り抜け、道路でヒッチハイクした車に乗り込み、ようやくナントを目指すことになるのです。

この映画は、個性的なキャラクターたちの織りなす予測不能な展開と、フランスの美しい風景、そして独特のユーモアが魅力の作品です。列車での出会いからユー島での騒動、そしてニューヨーク行きというハプニングを通して、人間模様がコミカルに描かれており、観るものを飽きさせません。ジャック・ロジエ監督のセンスが光る、忘れがたい一作と言えるでしょう。

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