モシレチク・コタネチク

モシレチク・コタネチク：アイヌ神話における最強の魔神

アイヌ民族に伝わる叙事詩「ユーカラ」に登場する、恐るべき魔神、モシレチク・コタネチク。その名は「モシレチク・コタネアシタ、モシロアシタ・コタネアシタ」とも伝えられています。正確な意味は失われていますが、「村滴々、国滴々」といった解釈もあります。

圧倒的な力と異形の姿

モシレチク・コタネチクは、想像を絶するほどの巨大な怪物として描かれています。岩の鎧を身につけ、小山が動き出したかのような姿。トドの皮の縄で櫂ほどの太刀を腰に巻きつけ、片方の目は紫蘇の実ほどに小さく、もう片方の目は満月のように巨大です。日の出と日没には太陽を呑み込もうと大口を開け、神々は狐や烏を投げ込んで太陽の通過を助けていました。

太陽神の監禁と世界の暗黒

ある日、モシレチク・コタネチクはついに太陽神を捕らえ、六重の檻（木の筐、金の筐、岩の筐）に閉じ込めてしまいました。世界は暗闇に包まれ、人々は眠りから覚めることができなくなり、多くが眠り死んでいきました。他の神々も救出を試みましたが、魔神の恐ろしい魔力によって赤ん坊に変えられてしまうのでした。

英雄神アイヌラックルの活躍

絶望的な状況の中、神々の要請を受けた英雄神アイヌラックルが登場します。彼は風となり、六重の柵をすり抜け、魔神の館に侵入。六重の檻を打ち破り、太陽神を救出しました。アイヌラックルは雲の小船を作り、太陽神を乗せて空へ放ち、世界に光を取り戻しました。

壮絶な戦いと魔神の封印

しかし、モシレチク・コタネチクは激怒し、アイヌラックルに襲いかかります。アイヌラックルは、世界を壊さずに魔神を倒すため、地下世界へと誘い込みます。そこで「夏冬六年」という長きにわたる壮絶な戦いが繰り広げられ、最終的にアイヌラックルはモシレチク・コタネチクを六重の地獄界へと蹴落として、世界に平和をもたらしました。別の伝承では、魔神の城を地獄の底に蹴落とし、その後で太陽神を救出したという記述もあります。

アイヌラックルとモシレチク・コタネチクの戦いは、アイヌの古伝の中でも特に有名な「ポロオイナ（大伝）」として知られていますが、秘曲であり、その伝承は失われつつあります。

モシレチク・コタネチクの名前の由来と解釈

「モシレチク・コタネチク」の名前の由来は、明治期の時点で既に忘れ去られていました。金田一京助は「村滴々、国滴々」と訳出していますが、chikが「滴る、落ちる」を意味することから、この解釈が導き出されたと考えられます。アイヌラックルの名前も、複雑な意味を持つ言葉で、その解釈には諸説あります。

現代におけるモシレチク・コタネチク

近年では、ゲーム作品などでもモシレチク・コタネチクが登場しています。例えば、『大神』では双魔神として、また『Fate/Grand Order|Fate_Grand Order』のイベントにも登場するなど、その恐ろしい姿と物語は現代にも受け継がれ、再解釈されています。

まとめ

モシレチク・コタネチクは、アイヌ神話における最強の魔神として、その圧倒的な力と異形の姿、そして英雄神アイヌラックルとの壮絶な戦いは、アイヌ文化の深遠さと奥深さを象徴する存在と言えるでしょう。その物語は、光と闇、善と悪、そして自然と人間の関わりを深く考えさせる、貴重な文化遺産です。

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