モスクワ・バロック

モスクワ・バロック：ロシア建築の華麗なる変貌

モスクワ・バロック（Московское барокко）は、17世紀後半から18世紀初頭にかけてモスクワを中心に発展した建築様式です。別名ナルィーシュキン・バロック（Нарышкинское барокко）とも呼ばれ、ロシアの伝統的な建築様式と、中欧を経由して伝わったウクライナ・バロックの要素が融合した独特のスタイルを持っています。この時代、サンクトペテルブルクではピョートル・バロックが発展しており、モスクワとサンクトペテルブルクという二つの都市で異なるバロック様式が花開いたことは、当時のロシアの文化的な多様性を示す象徴と言えるでしょう。

モスクワ・バロックの誕生と発展

モスクワ・バロックの初期の重要な例は、ピョートル大帝の母であるナターリヤ・ナルィーシュキナによって建てられた教会建築に見られます。この様式は、従来のロシア建築の重厚さを残しつつも、バロック特有の華やかな装飾や曲線美を取り入れている点が特徴です。特に、窓枠や柱頭の装飾、ドームの形状などにその影響が見られます。しかし、1730年代に入ると、モスクワ・バロックは、バルトロメオ・ラストレッリによって導入されたロシア・バロックへと次第に移行していきました。

モスクワ・バロックの建築的特徴

モスクワ・バロックは、従来のロシア建築に比べて、より明るく、装飾的で、軽快な印象を与える点が特徴です。レンガ造りの壁面に白い石灰岩で装飾を施すことで、コントラストを強調し、建物のシルエットを際立たせています。また、バロック様式に見られる曲線や装飾的なモチーフが、伝統的なロシア建築の直線的なデザインに融合することで、独特の美しさを生み出しています。

代表的なモスクワ・バロック建築

モスクワ・バロックを代表する建築物としては、以下のようなものが挙げられます。

フィリの生神女庇護教会（1693-1696年）： モスクワ・バロックの代表的な建築物の一つで、華麗な装飾と美しいシルエットが特徴です。
ドゥブロヴィツィ奇蹟教会（1690-1697年）： モスクワ郊外に位置し、精巧な彫刻が施された白い石造りの教会です。
ウボールィの救世主（1694-1697年）： 独特の形状を持つドームが印象的な教会で、モスクワ・バロックの個性を強く示しています。
ノヴォデヴィチ修道院（2004年世界遺産認定）： モスクワを代表する修道院で、バロック様式と伝統的なロシア建築様式が融合した美しい建築群が特徴です。
ドンスコイ修道院： モスクワ南部にある修道院で、複数の教会建築がモスクワ・バロック様式で建てられています。
ソロチャ修道院（リャザン近郊）： リャザン地方にある修道院で、モスクワ・バロックの影響が見られる教会が残されています。
スーハレフ塔（1692-1695年建設、1934年解体）： モスクワのランドマークの一つでしたが、ソ連時代に解体されました。モスクワ・バロックの象徴的な建物でした。
国立歴史博物館（モスクワ）： モスクワ中心部に位置する博物館で、モスクワ・バロック様式を取り入れた外観が特徴です。

モスクワ・バロックの建築家たち

モスクワ・バロックの発展に貢献した建築家としては、以下の人物が挙げられます。

ヤーコフ・ブフヴォツォフ： モスクワ・バロック初期を代表する建築家の一人で、数多くの教会建築を手掛けました。
ピョートル・ポタポフ： モスクワ・バロックのスタイルを確立した重要な建築家の一人です。

モスクワ・バロックは、ロシア建築史において、伝統と革新が融合した重要な様式として位置づけられます。その建築物は、現在もなお、ロシアの文化遺産として大切に保存され、多くの人々を魅了し続けています。

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