モテット

モテットとは

モテットは、主に中世末期からルネサンス音楽にかけて成立・発達した声楽曲のジャンルです。ミサ曲以外のポリフォニーによる宗教曲を指し、多くは葬式のために臨時に書かれる単一楽章の楽曲です。

概要

「モテット」という言葉は13世紀以降の世俗ポリフォニー歌曲に遡りますが、音楽学上、アルス・アンティカやアルス・ノーヴァの世俗ポリフォニーは「モテートゥス」、ルネサンス以降の教会ポリフォニーは「モテット」と区別されます。英語とフランス語では綴りが同じですが、フランス語では「モテ」と発音します。

語源

モテットの語源は、中世フランス語で「ことば」を意味する「mot」に由来します。これは、アルス・アンティカのモテートゥスの特徴であるポリテクスト（各パートが異なる言語や内容を歌うこと）を指しています。この「mot」から派生した中世ラテン語の「motectum」が、次第に変化して「モテ」または「モテット」という言葉が生まれました。

発展

ルネサンス時代には、モテットはミサ通常文以外の宗教曲全体を指すようになりました。バロック時代になると、地域や宗派によって多様な形式が生まれました。ドイツのプロテスタント教会では、コラールを用いたモテットが作られ、シュッツやシャインらがヴェネツィアから複合唱様式を取り入れました。バッハもこの形式のモテットを多く作曲しています。フランスでは、室内アンサンブルや管弦楽伴奏を伴うグラン・モテ（大モテット）と、オルガンのみを伴奏とするプチ・モテ（小モテット）が成立しました。イングランドでは、アンセムやオードと呼ばれる類似のジャンルが生まれました。

ルネサンス期のモテット作曲家

アグリコラ
イザーク
オケゲム
オブレヒト
ゲレーロ
コンペール
ゴンベール
ジョスカン
タヴァーナー
タリス
ダンスタブル
デュファイ
ド＝ラ＝リュー
バード
パレストリーナ
バンショワ
ビクトリア
ビュノワ
フェヴァン
ムートン
モラーレス
ラッスス

バロック期ドイツ作曲家のモテット

ハインリヒ・シュッツ
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ
主に向かいて新しき歌を歌え Singet dem Herrn ein neues Lied (1726) BWV 225
聖霊はわれらが弱きを助けたもう Der Geist hilft unser Schwachheit auf (1729) BWV 226
イエス、わが喜び Jesu, meine Freude (?) BWV 227
恐れるなかれ、われ汝とともにあり Fürchte dich nicht (?) BWV 228
来ませ、イエス、来ませ Komm, Jesu, komm! (1730 ?)
主を頌めまつれ、諸々の異邦人よ Lobet den Herrn alle Heiden (?) BWV 230

バッハ以後のモテット

18世紀後半から啓蒙主義やロマン主義の影響でキリスト教が衰退し、モテットも顧みられなくなりました。しかし、モーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」は重要な作品として知られています。その他、フランク、ブルックナー、ブラームス、サン＝サーンス、フォーレ、スタンフォード、ヴォーン・ウィリアムズ、ディストラー、クレーネクなどがモテットを作曲しています。近現代のイギリスやアメリカの作曲家は、聖公会がカトリック典礼を復興するにつれて、ラテン語だけでなく英語のモテットも作曲するようになりました。

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