モプスエスティアのテオドロス

モプスエスティアのテオドロス：翻弄された神学者

モプスエスティアのテオドロス（350年頃 - 428年）は、キリスト教史において特異な運命をたどった人物です。生前は尊敬を集めた神学者でしたが、没後、その神学思想が論争の的となり、ある教派では聖人とされ、別の教派では異端者とみなされるという、評価が大きく分かれることになりました。

生涯：アンティオキアからモプスエスティアへ

テオドロスはアンティオキアで生まれ、裕福な家庭で育ちました。若い頃には、ヨアンネス・クリュソストモス（金口イオアン）と親交があり、共にリバニオスの下で修辞学を学びました。修道生活を志した時期もありましたが、一時放棄し、法学を学んだり、結婚を考えたりしたこともあったようです。しかし、最終的には再び修道院学校へ戻り、ディオドロスから教育を受けました。ディオドロスの両性論的なキリスト論や、字義的・歴史的な聖書解釈は、テオドロスに大きな影響を与えました。

383年、テオドロスはアンティオキアの司祭に叙階され、392年にはモプスエスティアの主教となりました。主教としては、説教、司牧、聖書解釈に励み、その名声はオリエンス管区の主教たちの間にも広まりました。彼の聖書解釈は、詩篇のうちごく一部にのみキリストへの予型を見出すなど、独特なものでした。また、ペラギウスやその弟子を庇護したことも知られています。

死後の論争：ネストリオスと三章論争

テオドロスの死後、彼の教え子であったネストリオスがコンスタンティノポリス主教に就任したことが、大きな論争の引き金となりました。ネストリオスは、マリアを「神の母（テオトコス）」と呼ぶことに異議を唱え、これがアレクサンドリアのキュリロスとの対立を招き、最終的にエフェソス公会議で異端宣告を受けることになりました。

さらに、430年代中盤になると、テオドロス自身も攻撃の対象となりました。ディオドロスと共に、ネストリオス派の源流とみなされたのです。カルケドン公会議では一時的に正統と認められたものの、ユスティニアヌス帝の時代に開催された第2コンスタンティノポリス公会議（553年）において、テオドロスは著作と共に異端と断罪されました。この決定に対し、北アフリカの主教たちは激しく反発し、三章論争と呼ばれる論争が展開されました。

東方教会における崇敬

一方、サーサーン朝領内の教会では、テオドロスの著作がシリア語に翻訳され、エデッサの神学校からニシビスへと拠点を移した神学校の影響もあり、テオドロスへの崇敬が強まりました。アッシリア東方教会（「ネストリオス派」）では、現在に至るまでテオドロスは「釈義者」として崇敬されています。

現代への遺産

テオドロスの著作の多くは散逸しましたが、断片的なものが残されており、彼の神学思想を知る手がかりとなっています。ギリシア語圏では公会議の決定により著作が破棄されましたが、ラテン語圏では三章論争の際に翻訳された資料が伝存しています。彼の生涯に関する情報も、ラテン語史料に多くを負っています。

モプスエスティアのテオドロスは、その神学思想が激しい論争を引き起こし、評価が大きく分かれた人物ですが、アンティオキア学派の代表的な神学者として、キリスト教史にその名を刻んでいます。彼の聖書解釈やキリスト論は、後世の神学に大きな影響を与え、今日においても研究の対象となっています。

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