モンゴルのジャワ侵攻

モンゴルのジャワ侵攻：失敗に終わった遠征とマジャパヒト建国の意外な関係

1293年、モンゴル帝国によるジャワ島への軍事遠征は、東南アジアの歴史における重要な転換点となりました。この遠征は、単なる軍事行動の失敗にとどまらず、マジャパヒト王国の建国という大きな歴史的変化を引き起こしたのです。本稿では、このモンゴルのジャワ侵攻の全貌を、背景、軍事力、戦闘、そしてその後の影響という観点から詳細に解説します。

1. 遠征の背景：拡大するモンゴル帝国とシンガサリ王国の衝突

モンゴルのジャワ遠征は、1289年にシンガサリ王国のクルタナガラ王がモンゴル帝国の使者を侮辱したことが発端です。しかし、その背景には、13世紀におけるモンゴル帝国の積極的な海外進出と、シンガサリ王国の勢力拡大という両者の利害が衝突していたという事情があります。

元来内陸国家であったモンゴル帝国でしたが、6代皇帝クビライ・カアンは南宋征服後、強力な海軍を背景に海洋進出を積極的に推進しました。一方、ジャワ島ではシンガサリ王国が勢力を拡大し、周辺諸国に影響力を及ぼしていました。両者の覇権争いは、やがて武力衝突へと発展するのです。

クビライ・カアンは、当初は外交交渉を試みましたが、クルタナガラ王の拒絶によって遠征を決断します。この決定には、モンゴル帝国の威信維持と、東南アジアにおける勢力拡大という意図が込められていたと考えられます。

2. モンゴル軍の構成：多民族からなる遠征軍

ジャワ遠征軍は、従来のモンゴル軍とは異なり、漢人の史弼を総司令官に据え、ウイグル人のイグミシュ、南人の高興を副司令官とする多民族から構成されていました。史弼は軍事手腕だけでなく民政にも長けた人物、イグミシュは豊富な航海経験を持つ人物、高興は実戦経験豊富な指揮官として選ばれました。

この多民族構成は、モンゴル帝国の多様な人材を活かすという戦略に基づいていたと推測されます。しかし、この多様な人材が、後に遠征の失敗につながる内部対立を引き起こす一因ともなった可能性も考えられます。

兵士の数は諸説ありますが、出発時の兵力は約5000人と推定されています。艦船は約500艘が動員され、1年間の兵站も準備されました。

3. ジャワ島侵攻：ウィジャヤとの協力と裏切り

1293年2月、モンゴル軍はジャワ島トゥバン港に到着しました。しかし、到着時には既にシンガサリ王国は滅亡しており、クディリ王朝の末裔であるジャヤカトワン王が支配していました。

ここで、ウィジャヤという人物が登場します。彼は、かつてクルタナガラ王の娘婿であった人物で、ジャヤカトワン王を討つためにモンゴル軍と協力します。しかし、ジャヤカトワン王を滅ぼした後、ウィジャヤはモンゴル軍を裏切り、殺害します。この裏切りによってモンゴル軍は撤退を余儀なくされ、遠征は失敗に終わります。

ダハでの戦闘では、モンゴル軍とウィジャヤの連合軍はジャヤカトワン軍を撃破しました。しかし、ウィジャヤの裏切りによってモンゴル軍は壊滅的な損害を受け、ジャワ島から撤退せざるを得ませんでした。

4. 遠征の影響：マジャパヒト王国の成立と交易の拡大

モンゴルのジャワ遠征は、軍事的には失敗に終わりましたが、その影響は多岐に渡ります。まず、ウィジャヤはマジャパヒト王国を建国し、東南アジアで大きな勢力を築きました。また、この遠征によって中国とジャワ島の間の貿易が盛んになり、東南アジアにおける交易ネットワークが拡大しました。

マルコ・ポーロの旅行記にも、この頃のジャワ島の繁栄が記されています。モンゴルのジャワ遠征は、軍事的な失敗にもかかわらず、東南アジアにおける政治・経済構造に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

5. まとめ：歴史の皮肉と新たな時代の幕開け

モンゴルのジャワ侵攻は、モンゴル帝国の海外進出における失敗例として歴史に刻まれています。しかし、同時に、この遠征がマジャパヒト王国という新たな強大な勢力の成立を促し、東南アジアの交易ネットワークの拡大に貢献したという皮肉な側面も持ち合わせています。この遠征は、軍事的な成功・失敗にとらわれない、多角的な視点から歴史を捉えることの重要性を改めて示していると言えるでしょう。

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