モンテネグロの国章

モンテネグロ国章：歴史と象徴

モンテネグロの国章は、2004年7月12日に制定されました。金色の双頭の鷲が、獅子が描かれた盾をしっかりと抱えている威風堂々としたデザインが特徴です。このデザインは、1910年から1918年まで使用されていたモンテネグロ王国ニコラ1世の紋章を基にしています。

デザインの詳細

国章の中央に描かれるのは、19世紀頃のペトロヴィッチ＝ニェゴシュ朝の紋章を継承したものです。青い空と緑の大地を背景に、右手を高く上げた金色の獅子が力強く歩む姿が表現されています。この獅子は、モンテネグロの勇気と誇りを象徴していると言えるでしょう。

双頭の鷲は、ビザンツ帝国に由来する由緒ある意匠です。鷲はそれぞれ、左足に王笏、右足に青いオーブ（宝珠）をしっかりと掴んでいます。王笏とオーブは、王権と権威の象徴として、古くから紋章デザインに用いられてきました。これらの組み合わせは、モンテネグロの長い歴史と伝統を雄弁に物語っています。鷲の頭部の上に輝く王冠は、かつてのモンテネグロ王国を想起させ、国章全体に荘厳さを与えています。

歴史的変遷

モンテネグロの国章は、時代とともに変化を遂げてきました。ユーゴスラビア連邦共和国時代やセルビア・モンテネグロ時代には、双頭の鷲が白く描かれていました。これは、多民族国家としてのユーゴスラビアの統一性を象徴していたのかもしれません。一方、モンテネグロ社会主義共和国時代には、双頭の鷲は姿を消し、ロヴチェン山をモチーフにした全く異なるデザインが用いられました。海に浮かぶロヴチェン山を月桂冠で囲み、上に赤い星を添えたこのデザインは、社会主義体制下の国章として典型的なものでした。このように、モンテネグロの国章は、常にその時代の政治情勢やイデオロギーを反映しながら、変遷を繰り返してきました。

現在の国章：伝統と現代性の融合

現在のモンテネグロの国章は、過去のデザインから着想を得つつ、現代的な解釈を加えたものです。ビザンツ帝国の伝統とペトロヴィッチ＝ニェゴシュ朝の紋章を巧みに融合させることで、モンテネグロの歴史とアイデンティティを鮮やかに表現しています。金色の双頭の鷲と力強い獅子の組み合わせは、モンテネグロの強さと独立性を象徴し、世界にその存在を力強く訴えかけています。この国章は、単なる紋章ではなく、モンテネグロの歴史、文化、そして国民の誇りを凝縮した象徴として、人々の心に深く刻まれていると言えるでしょう。


参考文献

苅安望 『世界の国旗と国章大図鑑 三訂版』 平凡社 ISBN 978-4-582-40735-8

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