モーツァルトのミサ曲

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは、その生涯を通じて多くのミサ曲を作曲しました。ここでは、彼の主要なミサ曲の一部を、その成立背景や特徴とともに紹介します。

最初期の作品の一つであるミサ曲 ト長調『ミサ・ブレヴィス』 K. 49 (47d) は、1768年の10月から11月にかけてウィーンで作曲されました。続いて、1769年1月14日にザルツブルクで書かれたミサ曲 ニ短調『ミサ・ブレヴィス』 K. 65 (61a) は、モーツァルトのミサ曲の中でも特に楽器編成が小規模な作品として知られています。

同じく1769年にザルツブルクで作曲されたミサ曲 ハ長調『ドミニク・ミサ』 K. 66 は、ミサ・ソレムニス（荘厳ミサ）に分類される初期のミサ曲です。この曲は、当時モーツァルト一家の大家であったローレンツ・ハーゲナウアの四男、カイェタン・ルーペルト・ハーゲナウアが司祭に叙任された際の、初めてのミサのために書かれました。『ドミニク・ミサ』というタイトルは、ハーゲナウアの修道名が「ドミニクス」であったことに由来しています。

1773年に作曲されたとされるミサ・ブレヴィス ハ長調 K. 115 (166d) は未完の作品ですが、現在ではモーツァルトの真作ではないとする偽作説が有力です。父レオポルト・モーツァルトの作品とする見方もありますが、これについても確証はありません。同じく1773年のミサ・ブレヴィス ヘ長調 K. 116 (90a) も、現在では父レオポルトの作品であることが確実視されている偽作です。

ミサ曲 ト長調『パストラル・ミサ』 K. 140 (Anh.C 1.12) は、1773年頃にザルツブルクで作曲されたと推測される作品です。当初はヨーロッパ各地の教会で見つかった写本から1770年代初頭の作品とされ、他者の偽作ではないかと疑われていました。しかし、後にモーツァルト自身の書き込みがある写譜が発見され、研究の結果、真作であると判断されました。このミサ曲は、ヨーゼフ・シュタルツァーのバレエ音楽に基づく編曲に近いスタイルを持っているとされています。

ミサ曲 ハ長調『三位一体の祝日のためのミサ』 K. 167 は、1773年6月にザルツブルクで作曲されたミサ・ソレムニスです。当時の雇い主であったヒエロニュムス・コロレド伯の指示により、簡素な形式で書かれています。同様に、1774年6月24日にザルツブルクで書かれたミサ曲 ヘ長調『ミサ・ブレヴィス』 K. 192 (186f) も、ザルツブルク大聖堂のために作曲されたと考えられており、コロレド伯の要求に応じた簡素なスタイルを持っています。

ミサ曲 ニ長調『ミサ・ブレヴィス』 K. 194 (186h) は、1774年8月8日にザルツブルクで作曲されました。これもザルツブルク大聖堂での使用を想定していたと見られています。父レオポルトが妻に宛てた手紙には、このミサ曲の演奏において、レオポルト自身が礼拝堂で指揮を行ったことが記されています。

1776年11月にザルツブルクで作曲されたミサ曲 ハ長調『クレド・ミサ』 K. 257 は、特定の祝祭日のために書かれた可能性が考えられますが、詳細な資料がないため明らかではありません。この曲は、『ミサ・ロンガ』に匹敵するほど大規模な編成を持っています。

ミサ曲 ハ長調『シュパウル・ミサ』 K. 258 は、1775年12月にザルツブルクで作曲されました。父レオポルトの手紙によると、このミサ曲はシュパウル伯爵の聖職叙任式のために書かれたものとされています。

1775年から1776年にかけてザルツブルクで書かれたミサ曲 ハ長調『オルガン・ソロ・ミサ』 K. 259 は、そのタイトルが示すように、「ベネディクトゥス」の楽章においてオルガンが声楽のオブリガードとして際立った役割を果たすことに由来しています。

ミサ曲 ハ長調『ミサ・ロンガ』 K. 262 (246a) は、1775年6月または7月にザルツブルクで作曲されました。この曲に父レオポルトが「長いミサ」を意味する『Missa longa』と書き込みを残したことから、この名で知られるようになりました。

ミサ曲 変ロ長調 K. 275 (272b) は、ミサ・ブレヴィスに分類され、1777年9月23日頃にザルツブルクで作曲されました。

ザルツブルク時代に作曲された最後のミサ曲は、1780年3月に書かれたミサ曲 ハ長調 K.337 です。この作品はミサ・ソレムニスであり、モーツァルトの教会音楽における一つの時代を締めくくる重要な作品と言えます。

これらのミサ曲は、モーツァルトが教会音楽の伝統の中で多様な形式や編成を試み、その才能を発揮した証拠であり、今日でも多くの人々に演奏され、親しまれています。

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