モーツァルトの舞台作品

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト（1756-1791）は、単に卓越した交響曲や協奏曲の作曲家としてだけでなく、劇場音楽の分野においても不朽の功績を残しました。彼が生涯に創作した舞台作品は多岐にわたり、オペラ、ジングシュピール（ドイツ語による歌芝居）、バレエ音楽、劇付随音楽など、様々な形式が含まれます。

モーツァルトの劇場作品を概観するにあたり、これらを大きく二つのカテゴリーに分類することが可能です。一つは中心的なレパートリーである「オペラ」、もう一つは「その他の舞台作品」として、オペラ以外のバレエ音楽や劇のための音楽などが挙げられます。

オペラ作品については、モーツァルトはイタリア語オペラ・セリア、オペラ・ブッファ、そしてドイツ語ジングシュピールといった当時の主要な形式すべてで傑作を生み出しました。『フィガロの結婚』、『ドン・ジョヴァンニ』、『コジ・ファン・トゥッテ』といったイタリア語オペラや、『後宮からの誘拐』、『魔笛』といったドイツ語ジングシュピールは、今日でも世界中の歌劇場で上演され、その革新性と音楽的な豊かさによってオペラ史に燦然と輝いています。これらの個々の作品に関する詳細な情報は、各項目を参照いただくこととします。

「その他の舞台作品」には、オペラほど大規模ではないものの、モーツァルトの劇場音楽への多様なアプローチを示す興味深い楽曲が含まれています。これらは特定の演劇やバレエのために作曲されたものであり、当時の舞台芸術と音楽の関わりを理解する上で貴重な例を提供します。

このカテゴリーに含まれる作品の中から、特筆すべき例をいくつか挙げることができます。

ガヴォット 変ロ長調 K.300

この短いながらも魅力的な楽曲は、1778年の春、モーツァルトがパリに滞在していた際に書かれました。具体的には、同年5月から6月にかけて作曲されたと考えられています。この曲は、当時パリで活躍していた著名な振付家ジャン＝ジョルジュ・ノヴェールによるバレエ『レ・プティ・リアン』（「取るに足らないもの」の意）で使用される目的で作曲された、バレエ音楽の一部でした。しかし、何らかの理由により、このガヴォットは結局『レ・プティ・リアン』の舞台では使用されませんでした。劇場で日の目を見ることはありませんでしたが、作品自体は失われることなく後世に伝えられ、今日ではモーツァルトのバレエ音楽の試みを示す貴重な作品として知られています。

ドイツ語喜歌劇 K.416a

1783年、ウィーンでの活動期に構想されたとされるドイツ語の喜歌劇です。この作品は、イタリアの偉大な劇作家カルロ・ゴルドーニの喜劇を基に作曲が進められる予定でした。しかし、残念ながらこの作品は後に紛失しており、現在その音楽を聴くことはできません。当時の資料などから推測されるのは、作曲家がこの企画に着手したものの、完成に至る前に放棄されたか、あるいはごく一部のみが作曲された未完の作品であった可能性が高いということです。具体的な音楽的内容や物語の詳細は不明ですが、モーツァルトがウィーンにおいて多様な形式の舞台作品に関心を寄せていた一時期の試みとして位置づけられます。

これらの作品は、モーツァルトの劇場における活動の幅広さを示しており、彼の天才がオペラという枠にとどまらず、様々な舞台のための音楽創作にも向けられていたことを教えてくれます。モーツァルトの舞台作品全体を辿ることは、彼の音楽が持つ劇的な力、登場人物の心理描写、そしてアンサンブルの巧みさといった側面をより深く理解する上で不可欠です。彼の舞台芸術への貢献は、以降のオペラや劇場音楽の発展に計り知れない影響を与えました。

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