モーティラール

俳優モーティラール

モーティラール（1910年12月4日 - 1965年6月17日）は、20世紀インド映画、特にヒンディー語映画で活躍した先駆的な俳優です。当時の演劇的なスタイルが主流の中、彼は自然で写実的な演技を追求し、後続世代の俳優たちに大きな影響を与えました。代表作として知られる『デーヴダース』や『Parakh』では、その卓越した演技でフィルムフェア賞助演男優賞を受賞しています。

生い立ち

1910年、北インドの避暑地シムラーの裕福な家柄に生まれました。父は著名な教育者でしたが、彼がわずか1歳の時に死去。外科医だった叔父に引き取られ育ちました。シムラーで初等教育を受けた後、ウッタル・プラデーシュ州、そしてデリーの大学へと進学し、知識を深めました。

俳優への転身とキャリア

大学卒業後、インド海軍将校を目指してボンベイ（現ムンバイ）へ赴きましたが、試験直前に病で断念。ボンベイに滞在中に映画監督K・P・ゴーシュに偶然見出され、1934年の『Shaher Ka Jadoo』で主演デビューを飾るという予期せぬ形で映画界に入りました。

デビュー後、サビタ・デーヴィとの共演作などで俳優としての地歩を固めました。メーブーブ・カーン、キダル・シャルマー、S・S・ヴァーサンといった当時の著名な監督たちの作品に多数出演。また、ラージ・カプールと共演した『Jagte Raho』など、多くのスターたちともスクリーンを共にしました。中でも1940年の『Achhut』で不可触民役を演じた際の真に迫る演技は、マハトマ・ガンディーやヴァッラブバーイー・パテールといった独立運動指導者からも特別に賞賛されました。晩年に近い1965年には、ボージュプリー語映画にも出演。死去直前に公開された『Chhoti Chhoti Baten』では、主演に加え監督、脚本、製作も兼ね、この作品で国家映画賞を受賞しています。

私生活

モーティラールは、女優のナディラーと長く交際しましたが結婚には至らず。その後、女優ショーバナ・サマルトと結婚しました。ショーバナには前夫との間に4人の子供がおり、後に女優として成功するヌータンやタヌージャーもその中に含まれます。モーティラールは義理の娘にあたるヌータンと映画『Anari』で共演し、彼女の父親役を演じました。

晩年と最期

1960年代に入ると、過度の飲酒により健康を害し、複数回の心臓発作に見舞われました。社交界で名を馳せる一方で、晩年はギャンブルに傾倒し、財産を失ったと言われています。経済的に困窮した状態で、1965年6月17日に54歳で亡くなりました。

後世の評価

モーティラールの没後も、彼の独自の演技スタイルは高く評価され続けています。インド映画界の巨匠アミターブ・バッチャンは、彼の自然な演技と時代を先取りした才能を称賛し、「今も生きていれば、その多彩さによって映画界に席が用意されていたはずだ。事実、彼は多くの俳優よりも上手くやっていただろう」と述懐しています。モーティラールは、リアリズム演技の先駆者として、インド映画史に不朽の足跡を残しました。

もう一度検索