モードック戦争

モードック戦争：溶岩地帯に消えた先住民の抵抗

モードック戦争は、1872年から1873年にかけて、オレゴン州南部とカリフォルニア州北部で、モードック族とアメリカ陸軍の間で発生した武力紛争です。「戦争」という名がついていますが、実質的にはアメリカ合衆国の民族浄化政策に対するモードック族の抵抗運動でした。この戦いは、カリフォルニア州あるいはオレゴン州における最後の「インディアン戦争」となり、白人将軍が戦死した唯一の「インディアン戦争」としても知られています。

戦争の背景

19世紀、アメリカ西部では白人入植者と先住民族との間で激しい対立が起きていました。これは、文化的な衝突だけでなく、白人による同化政策や土地の強奪が根本的な原因でした。モードック族とアメリカ合衆国の対立もその一環であり、1852年にモードック族が白人開拓者を殺害した事件がその始まりでした。

報復として、カリフォルニア民兵隊が和平交渉に訪れていたモードック族を殺害し、両者の敵対関係はさらに悪化しました。1864年、アメリカ合衆国はクラマス族、モードック族、スネーク族との間で、クラマス保留地を設置する条約を締結しました。この条約に基づき、モードック族はロスト川、テュール湖、ローワークラマス湖周辺の土地を放棄し、アッパークラマス渓谷の保留地に移住することになりました。

保留地での虐待と帰還

しかし、保留地に移住したモードック族は、宿敵であるクラマス族からの虐待を受けることになります。嫌がらせに耐えかねたキャプテン・ジャック率いるモードック族は、1870年に保留地を離れ、ロスト川地域に戻りました。その間にも、白人入植者たちはロスト川地域の土地を占領し、モードック族の帰還を認めようとしませんでした。

アルフレッド・B・ミーチャムは、モードック族に別の保留地を与えることを進言しましたが、白人入植者たちはモードック族をクラマス保留地に強制的に戻すことを要求しました。その結果、1872年、アメリカ軍はモードック族を保留地に戻すことを決定しました。

ロスト川の戦いと溶岩地帯への立てこもり

1872年11月29日、アメリカ軍はモードック族の宿営地を襲撃し、ロスト川の戦いが勃発しました。モードック族は、アメリカ軍に抵抗し、カリフォルニア州境近くの溶岩地帯「ラバベッズ」に撤退しました。165名のモードック族は、この溶岩地帯に立てこもり、抵抗を続けました。

ラバベッズは、天然の要塞であり、モードック族は地形を巧みに利用して、アメリカ軍の攻撃を何度も撃退しました。特に、「キャプテン・ジャックの砦」と呼ばれる場所は、モードック族が防御陣地として使用したことで知られています。

和平交渉と悲劇的な結末

アメリカ軍は、モードック族の抵抗を鎮圧するために、大規模な軍事作戦を展開しましたが、ラバベッズの地形とモードック族の抵抗によって、作戦は難航しました。アメリカ政府は、和平委員会を設置し、モードック族との交渉を開始しました。

しかし、交渉は難航し、モードック族は自分たちの土地での保留地を要求し続けました。一方、アメリカ政府は、モードック族に保留地への移動と、白人入植者を殺害した者を裁判にかけることを要求しました。交渉が決裂すると、モードック族の一部はアメリカ軍の指導者を殺害することを計画しました。

1873年4月11日、和平交渉の場でキャプテン・ジャックは、キャンビー将軍を殺害し、交渉は完全に決裂しました。この事件は、アメリカ政府と国民を激怒させ、モードック族は徹底的な弾圧を受けることになりました。

終戦とモードック族のその後

アメリカ軍は、ラバベッズへの攻撃を再開し、モードック族は次々と拠点を失いました。1873年6月、キャプテン・ジャックは降伏し、戦争は終結しました。キャプテン・ジャックを含むモードック族の指導者たちは、和平委員会メンバー殺害の罪で裁判にかけられ、死刑を宣告されました。

モードック族の残党は、インディアン準州に送られ、その後、一部はクラマス保留地に戻ることを許されました。しかし、モードック族の故郷は失われ、民族としての歴史は大きく傷つけられました。

モードック戦争が残したもの

モードック戦争は、アメリカの先住民政策における暗い側面を象徴する出来事です。この戦いは、白人入植者の拡大と先住民の土地の喪失、そして民族浄化政策がもたらした悲劇を今に伝えています。また、キャプテン・ジャックをはじめとするモードック族の抵抗は、アメリカ先住民の権利と尊厳を求める闘いの歴史に刻まれています。

モードック戦争の戦場跡は、現在、ラバベッズ国立記念公園として保護されています。この公園は、歴史的な場所を保存するだけでなく、モードック族の苦難と抵抗の歴史を後世に伝えるための重要な場所となっています。

付記

戦場の状況: 溶岩地帯は、防御に有利な一方、水や食料の確保が難しく、モードック族は厳しい環境下で戦わざるを得ませんでした。
アメリカ軍の対応: アメリカ軍は、当初、モードック族の抵抗を過小評価していましたが、連戦連敗を受けて戦術を修正し、最終的にモードック族を圧倒しました。
モードック族の社会: モードック族の社会は、合議制民主主義が基本であり、キャプテン・ジャックは「指導者」ではなく、あくまで「調停者」でした。しかし、白人はキャプテン・ジャックを「指導者」と誤解し、彼に全責任を押し付けました。
キエントプース（キャプテン・ジャック）の遺体: 処刑されたキャプテン・ジャックの遺体は、故郷への埋葬を願う遺族の請願もむなしく、防腐処理を施されて見世物小屋の出し物にされたという悲しい結末を迎えています。

参考文献

Quinn, Arthur. Hell With the Fire Out: A History of the Modoc War
Riddle, Jeff C., The Indian History of the Modoc War
Solnit, Rebecca. River of Shadows: Eadweard Muybridge and the Technological Wild West
Yenne, Bill. Indian Wars: The Campaign for the American West
S. Cohen,Felix.Readings in Jurisprudence and Legal Philosophy
Capps,Benjamin.The Great Chiefs
McMurtry,Larry.Crazy Horse

外部リンク

Map of the campaigns during the Modoc War
Indian Wars: The Modoc War
The Modocs: A Beautiful Little War by Gary Brecher

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