モーリス・タバール

モーリス・タバール：シュルレアリスム的光を放つ写真家

モーリス・タバール（1897年-1984年）は、20世紀を代表するフランスの写真家の一人です。リヨンに生まれ、青年期をアメリカで過ごした後、1928年にパリに移り住みました。パリでは、ファッションや広告写真の分野で才能を開花させると同時に、シュルレアリスム運動に深く傾倒し、独自の表現世界を築き上げました。

タバールの写真作品は、マン・レイの影響を強く受けたシュルレアリスム的要素と、洗練された美意識が融合した独特のスタイルを特徴としています。多重露光、ソラリゼーション、フォトグラムといった高度な技術を駆使し、現実離れした幻想的な世界や、女性を被写体とした官能的なイメージを鮮やかに描き出しました。特に、ヌードを含む女性像を主題とした作品は、タバールの代表作として高い評価を得ています。

彼の作品は、戦前のフランスを代表する雑誌『ヴュ』をはじめ、戦後には世界的に有名なファッション誌『ハーパース・バザー』など、数々の媒体で発表されました。しかしながら、第二次世界大戦の戦禍により、多くの初期作品が失われたという悲しい歴史も持ち合わせています。

日本においては、タバール個人の大規模な展覧会は未だ開催されていません。しかしながら、彼の重要な作品は、日本の美術館で開催されたいくつかのグループ展で紹介されています。具体的には、「写真のエコール・ド・パリ」、「アジェ、マン・レイ、ブラッサイの巴里」、「写真の歴史160年　ダゲレオタイプから今日まで」、「シュルレアリスムと写真　痙攣する美」といった展覧会で、計数十点の作品が展示されました。これらの展覧会では、『Eye-Sea　ルネ・マグリットへのオマージュ』や『コンポジション』といった代表作を含む、多様な技法とテーマの作品群が、日本の観客に紹介されました。

これらのグループ展で展示された作品リストには、多重露光やソラリゼーションといった手法を用いた作品が多く含まれています。タイトル未定の作品や、1930年代から1950年代にかけて制作された作品、そして『ハーパース・バザー』を題材とした作品なども含まれています。ゼラチン・シルバー・プリントという手法で制作されたこれらの作品は、東京都写真美術館やツァイト・フォト・サロンといった機関に収蔵されています。

晩年、1984年に逝去したタバールですが、彼の残した作品は、シュルレアリスム写真における重要な位置を占め、現在もなお多くの写真愛好家や研究者から高い関心を集めています。彼の革新的で美しい作品群は、これからも人々の心を魅了し続けることでしょう。

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