モーリッツ・エッゲルト

モーリッツ・エッゲルトは、1965年 11月25日にドイツに生まれた、現代音楽の作曲家であり、卓越したピアニスト、そしてオペラ作曲家です。著名な作家と写真家を両親に持つ家庭に育ち、幼少期から豊かな芸術的環境の中で感性を磨きました。

彼の音楽の探求は、まず教育機関での学びから始まりました。作曲技法については、クラウス・キュウヌル、そしてミュンヘンにおいてはヴィルヘルム・キルマイヤーといった指導者に師事しました。ピアニストとしては、レオナルド・ホカンソンに師事し、演奏技術を磨きました。ミュンヘン滞在中には、国際的な音楽祭であるミュンヘン・ビエンナーレの総監督を務めていた高名な作曲家、ハンス・ヴェルナー・ヘンツェと親しい交流を持ちました。この交流は、エッゲルトの音楽観に大きな影響を与えただけでなく、具体的な活動にもつながっています。彼はヘンツェの全鍵盤作品を演奏会で取り上げたほか、ヘンツェの代表作の一つである「レクイエム」を、トランペットとオルガンのための編成に編曲するなど、師への深い敬意と洞察を示しました。

キャリアの早い段階で、エッゲルトはガウデアムス賞において、作曲と演奏の両部門で受賞するという快挙を成し遂げ、その多才ぶりを早くから証明しました。国際的なコンクールへの参加は比較的遅く、30代に入ってから本格化しましたが、その後の活躍は驚異的でした。ドイツ国内の権威あるシュトゥットガルト国際作曲コンクールをはじめ、遠くはタイ国際サクソフォン作曲コンクールに至るまで、世界各国の主要な作曲賞を次々と制覇しました。これらの成功により、彼の名はドイツ国内はもちろん、国際的な現代音楽シーンにおいて広く知られるようになり、ドイツ音楽界における確固たる地位を築きました。

エッゲルトの作曲における最大の特色は、「アクション」に対する強い関心と探求心です。彼は、音楽を単に聴覚的な現象としてだけでなく、演奏家が行う身体的なアクションや、楽器から生まれる視覚的な要素をも積極的に作品に取り込みます。その創造性は非常に豊かで、時には常識を打ち破るようなユニークな発想へとつながります。例えば、ピアノの鍵盤をかかとや鼻で演奏する、楽器の弦や共鳴板に直接触れる内部奏法を駆使する、人間の口腔から発せられる様々な音のみで音楽を構成する、といった試みを行っています。さらに、自動車のクラクション6台を用いた大規模な作品や、2本のリコーダーを同時に演奏させる、オペラにおいて歌手に演技を強く要求するといった、多岐にわたる表現手法を探求しています。一方で、彼は伝統的な音楽の語法や形式にも深い理解を示しています。チェロとピアノのための作品「Bad Attitude II」では、両楽器による伝統的な超絶技巧の応酬が繰り広げられます。また、自身のピアノ協奏曲と並んで、ムソルグスキーの有名な組曲「展覧会の絵」を演奏会で取り上げるなど、現代的な革新性と古典的な伝統への敬意とを見事に両立させています。近年では、クラシック音楽の範疇にとどまらず、ポップスアーティストと同様の形式でソロアルバムを発表するなど、その活動領域をさらに広げています。彼の作品の楽譜は、当初ショット社から出版され、その後シコルスキ社を経て、2021年現在はリコルディ・ベルリン社から刊行されています。

ピアニストとしてのエッゲルトは、現代音楽に特化するのではなく、独自の視点から選ばれた幅広いレパートリーを演奏することで知られています。彼は若くして現代音楽の演奏家として注目され、ハンス＝ユルゲン・フォン・ボーゼのような同時代の作曲家による複雑なピアノ作品をレパートリーに取り入れるなど、その技術力と深い解釈力は高く評価されています。現代音楽のスペシャリストとしての顔を持ちながらも、多様な時代の作品に新たな光を当てる演奏家としての側面も、エッゲルトの魅力の一つと言えるでしょう。

モーリッツ・エッゲルトは、作曲家、ピアニスト、オペラ作曲家として、常に新しい音楽の可能性を探求し続けるアーティストです。その斬新な発想と確かな実力は、現代音楽シーンにおいて重要な影響を与え続けています。

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