ヤエヤマヒトツボクロ

ヤエヤマヒトツボクロ（八重山一黒子）

ヤエヤマヒトツボクロ（学名：Nervilia aragoana）は、ラン科に属する地生の多年草です。この植物は沖縄諸島およびそれ以南の琉球列島をはじめ、熱帯アジア、オーストラリア北部、サモア諸島にかけて広く分布しています。常緑広葉樹林の林床に自生しており、特に美しい花を咲かせることで知られています。

外部形態

ヤエヤマヒトツボクロの地下には、金平糖のような形状の白色球状球茎があります。この球茎は周囲に突起を持ち、開花時には葉が存在しません。八重山諸島においては、通常6月から7月にかけて直立した花茎が立ち上がり、淡緑色の花を総状に咲かせます。開花が終わると、葉が一枚だけ出現し、葉柄には丸い心形の葉身が付きます。また、葉の基部からは短い茎から水平方向に地下茎が伸び、新たな球茎を形成します。成熟した球茎の頃には、葉が黄変し枯死し、一時的に休眠状態となります。

生態

ヤエヤマヒトツボクロは、栄養繁殖を行い、小さな群落を形成します。その生育場所は比較的開けた人里近くの平地の林床で、クマガイソウの群落に似た印象を与えますが、植物自体の形態には明確な違いが存在します。このため、別名としてヤエヤマクマガイソウが使われることもあります。各花は約2日でしぼみ、一般的には昆虫による受粉が必要ですが、本種は自家結実も見られることがあります。ただし、個体群によって異なる性質が報告されているため、一概には言えません。開花後の蒴果は迅速に成熟し、約25日後に完熟して裂開します。しかし、種子量はラン科植物としては少なく、種皮は薄い半透明であるため、発芽に至るには特別な条件を要します。

栽培

琉球列島内での生育パターンは、冬緑性の生活史を持ち、5月には落葉、6月から7月にかけて開花、そして7月頃から新しい葉が出芽します。9月には展葉が完了し、次の春まで成長が続きます。しかし、栽培下では分球した球茎を同じ鉢で育てると、出芽時期にばらつきがあり、生育が均一でないことがしばしばあります。時には展葉した個体と開花個体が同時に見られることもあり、これは自然の状態ではあり得ません。生育に不適な時期に出芽した場合、新球茎を形成できず淘汰されることが一般的ですが、長期的には生育好適期にほぼ同時に成長することが多いです。日本本土での栽培においては、淘汰の時期が自生地と異なるため、生育期がずれることもあります。

この植物は休眠期間が短く、実質的には周年生長型の植物として管理しなければなりません。特に琉球列島に自生する個体は冬緑性の生活史を持つため、冬季の温度が不足すると健全な新球茎の発達が難しくなります。短期間の低温には耐性がありますが、秋から春にかけて平均気温が25℃以上でないと安定した増殖が難しいことが示されています。沖縄島でも自然な気温下では開花株に成長するのは困難です。

保全状況

この種は環境省のレッドリストで絶滅危惧II類（VU）に指定されており、2012年に評価されました。これにより、ヤエヤマヒトツボクロの保護が重要な課題とされています。

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