ヤクシマラン亜科

ヤクシマラン亜科 Apostasioideae について

ヤクシマラン亜科（Apostasioideae）は、ラン科（Orchidaceae）に含まれる特異な分類群で、特に花の構造がシンプルであることが特徴です。この亜科には、主に2つの属が含まれています。これらは日本を含む東南アジア地域に分布しており、ヤクシマラン亜科は一般的なラン科植物と比較して、顕著に異なる形態的特徴を持っています。

特徴

この亜科に属する植物は、一般に大きくない多年生の草本です。茎は地上に立ち上がり、上部には数枚の楕円形の葉を持っています。花は穂状に茎の上部に着き、花の構造は単純であり、内花被と外花被がそれぞれ3枚ずつ、計6枚の同型花びらから構成されています。なお、雄蘂と雌蘂は基部で融合しますが、上部では独立しています。

ヤクシマラン亜科の花は、放射相称の形状を取り、他の多くのラン科植物が持つ左右対称の特性をほとんど示しません。このため、観察者には花がよりシンプルに見えるのです。特に、唇弁は見られず、全ての花びらは同様の形をしています。また、雄しべは3本全てが存在し、これによって花粉も形成されますが、独特なのは、ヤクシマラン属の一部の雄しべが花粉を産生しない「仮雄蘂」を含むことです。さらに、これらの花の柱頭は三裂する方式を取ります。

分類的な意味合い

この亜科は、ラン科の中でも原始的な特徴を色濃く残していると考えられています。そのため、分類的には特異な位置を占めています。この植物群は分子系統解析において、ラン科の中で最も早い段階で分岐したとされています。したがって、他のラン科の群よりもその進化的関係が示唆されています。

さらにラン科の植物は、菌根との共生が特徴的であることが知られていますが、特にヤクシマラン亜科の植物は、担子菌類との共生を行っています。この点でも、従来のラン科植物とは異なる進化的な道をたどってきたことを物語っています。

分類と分布

ヤクシマラン亜科は、通常はラン科の亜科として扱われますが、独立した科として分類されることもあります。この亜科には、以下の2つの属が含まれています。
1. Apostasia（ヤクシマラン属）：東南アジアに6種が存在し、日本には特有のヤクシマラン（Apostoasia wallichii var. nipponica）が見られます。
2. Neuwiedia：熱帯アジアに8種が分布しています。

これらの植物たちは、低山の森林や湿った場所で一般的に観察され、特に日本の独特な環境下でもその姿を見せるため、観賞用としても注目されています。

参考文献

• - 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他『日本の野生植物 草本I 単子葉植物』（1982年、平凡社）
• - 井上健（1997年）「ヤクシマラン」p.252-253
• - Tomohisa Yukawa et al. (2009) 「Mycorrhyzal diversity in Apostasia(Orchidaceae)...」American Journal of Botany 96(11) pp.1997-2009.

もう一度検索