ヤズィーディー

ヤズィーディー教の概要

ヤズィーディー教（ヤジディ教、Yazidi）は、イラク北部などに居住するクルド人の一部が信じる独自の民族宗教です。この宗教は、口伝えの教義に基づき、特に二つの聖典『ミスヘファ・レシ』と『キテバ・ジルウェ』が存在しますが、これらは20世紀初頭に編纂されたと考えられています。ヤズィーディー教は、クルド人の宗教でありながら、未だにその全容は明らかにされていない部分が多いのが特徴です。

信者と聖地

最も多くのヤズィーディー信者はイラクのニーナワー県に位置するシンジャール地方に住んでおり、自らの聖地とされるラーリーシュには創始者の聖廟があります。信者たちは、この地を地球の中心と考え、聖なるザムザムの泉での洗礼を重んじています。ヤズィーディー教徒は、新たに信者を募ることはなく、信者の血筋を持つ者だけが信徒となることができるとされています。

歴史的背景

ヤズィーディー教は、一神教でありながら、古代のゾロアスター教やメソポタミアの伝統儀式、キリスト教、ユダヤ教、スーフィズム、イスラム教の影響を受けた宗教です。特に七大天使の中で孔雀天使マラク・ターウースを信じ、太陽に祈りを捧げることが特徴的です。そのため、歴史的には時間を経て色々な宗教の要素が融合し、シンクレティズム的な性質を持つことが確認されています。

ヤズィーディー教の起源についてはアディー・イブン・ムサーフィルというスーフィー指導者の改革によって現在の形になったという説が有力です。ヤズィーディー教は、他の宗教からの改宗を受け入れず、信者同士の結婚が強く信じられています。

教義と信仰

ヤズィーディーは輪廻転生を教義の一部として持ち、カースト制度を形成しています。信仰体系には、他の宗教の教えとはかなり異なる独自の特徴があり、特にマラク・ターウースへの崇拝とその描写は、イスラム教徒からは悪魔の象徴と見なされることもあります。このため、ヤズィーディー教徒は時折宗教的迫害に遭い、過激なイスラム教団体からの攻撃のターゲットにもなってきました。

迫害の歴史

特にサッダーム・フセイン政権下では、ヤズィーディー教徒は村落の破壊と強制移住を強いられ、2007年には大規模な自爆テロによって多くの信者が犠牲になりました。また、2014年のISILによる攻撃では信者が大量に虐殺され、難民となる者も多く、国際的な援助が求められる事態となりました。

現在の状況

現在、イラクのクルディスタン地域では少数のヤズィーディー教徒からなる議員が議会に存在し、文化や信仰の継承が試みられています。しかし、依然として地域の宗教勢力との緊張関係は続いており、社会の中でどのように位置づけられているかは、今後の課題となるでしょう。

このように、ヤズィーディーは独自の文化と信仰を持つ民族宗教であり、歴史的・現代的な迫害の影響の中で、その信仰を保とうと奮闘しています。

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