ヤドカリ下目

ヤドカリ下目（異尾下目）

概要

ヤドカリ下目（Anomura）は、エビ、カニと同じ十脚目（Decapoda）に属する甲殻類の大きな分類群の一つです。「異尾下目」とも呼ばれるのは、後述する形態的な特徴、特に腹部の構造に由来しています。この下目には、一般的にヤドカリとして知られる生物のほかにも、タラバガニ、ヤシガニ、コシオリエビ、カニダマシ、スナホリガニなど、多種多様な姿かたちの甲殻類が含まれています。かつてはアナジャコもこの下目に分類されていましたが、現在は別の分類群とされています。ヤドカリ下目は、カニ下目（短尾下目）とは近縁の関係にあり、両者で合わせて「Meiura」と呼ばれる単系統群を形成することが分子系統解析などから示されています。

この下目全体で、これまでに確認されている種はおよそ2470種に上ります。生息環境は極めて多様で、大部分の種は広範な海の環境に生息していますが、一部には淡水に適応した種類も存在します。淡水生の例としては、南米に分布するタンスイコシオリエビ科の約60種や、ヤドカリ科のごく一部の種類が知られています。また、オカヤドカリ科の仲間、特にオカヤドカリやヤシガニなどは、成長した個体が陸上で生活するという珍しい生態を持っています。

形態

ヤドカリ下目に属する甲殻類の最も顕著な形態的特徴は、彼らの腹部（尾部にあたる部分）があまり発達せず、多くの場合、頭胸部の腹側に折りたたまれているか、あるいは外部の構造物（多くは巻き貝の殻）の中に収納されている点です。エビのように長い腹部を持つ種類は少ないです。また、歩脚（脚）の構造にも特徴があります。通常、一番前の歩脚は大きく発達して獲物を捕まえたり身を守ったりするのに用いる鋏脚（はさみあし）となります。一方、後方の歩脚、特に第5歩脚（種類によっては第4脚も含む）は非常に小さく退化しており、多くの場合、背中側に折りたたまれています。このため、エビやカニと同じく「十脚目」に属するにもかかわらず、外見上は8本または6本の歩脚しか持たないように見えます。

同じヤドカリ下目の中であっても、その外見は属する科によって大きく異なります。この形態の多様性がこの下目の特徴の一つと言えます。例えば、いわゆるヤドカリの仲間は、発達の悪い腹部を巻き貝の殻の中に収めており、貝殻の螺旋形に合わせて腹部も左右非対称になっています。この左右非対称な腹部の特徴が、「異尾類」という別名の由来となっています。タラバガニやカニダマシなどは、大きな鋏脚を持ち、退化した腹部を頭胸部の下に折り込んでいるため、パッと見はカニに非常によく似ています。一方、コシオリエビの仲間は、細長い鋏脚と、やや発達した腹部を持ち、腰を折ったような姿勢をとることが多いため、エビのような姿に見えます。

利用

ヤドカリ下目に含まれる甲殻類の中には、人間に広く利用されている種も少なくありません。特に大型になる種類は重要な水産資源として利用されています。代表的な例として、タラバガニやアブラガニなどが挙げられ、これらは食用として世界中で高く評価されています。また、小型のヤドカリ類などは、その独特の生態や可愛らしい姿から、アクアリウムなどで観賞用として飼育されることもあります。

分類

ヤドカリ下目は、現在、7つの上科に分けられ、さらにその下に20の科が属しています。主な上科としては、スナホリガニ上科（スナホリガニ科など）、タンスイコシオリエビ上科（タンスイコシオリエビ科）、クモエビ上科（クモエビ科、キワ科など）、ロミス上科（ロミス科）、コシオリエビ上科（コシオリエビ科、カニダマシ科など）、ヤドカリ上科（ヤドカリ科、オカヤドカリ科、ホンヤドカリ科など）、タラバガニ上科（タラバガニ科、イボトゲガニ科）などがあります。

系統

分子系統解析を用いた研究からは、ヤドカリ下目の進化に関する興味深いいくつかの知見が得られています。特に、タラバガニ上科は形態的にはカニに似ていますが、系統的にはヤドカリ上科の中のあるグループ（具体的にはホンヤドカリ科の一部）から分かれて進化したものであることが示唆されています。このことから、ヤドカリ上科はタラバガニ上科を含む形で分類しないと単系統群にならない、いわゆる側系統群であると考えられています。また、分子レベルでの解析からは、伝統的な分類で一つの科とされてきたヤドカリ科やチュウコシオリエビ科が、実際には複数の異なる系統からなる多系統群である可能性も指摘されており、今後の分類学的な整理が期待されています。

関連項目

* カーシニゼーション

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