ヤブタバコ

ヤブタバコ（Carpesium abrotanoides L.）

概要

ヤブタバコは、キク科ガンクビソウ属に分類される一年草または越年草です。その最大の特徴は、直立した茎の先端から放射状に長く伸びる枝に、多数の葉と花を穂状につける独特の姿です。和名の由来は、下部の葉がタバコに似ており、藪地に生えることによります。また、漢名では天名精（てんみょうせい）と呼ばれ、古くから薬用植物としても利用されてきました。

特徴

形態

全体: 草丈は50～100cm程度で、主茎は直立し、先端付近から数本の枝を放射状に伸ばします。これらの枝は斜め上に長く伸び、さらに枝分かれします。
葉: 根元の葉は開花期にはなくなり、主茎につく葉は広楕円形から長楕円形で、長さ20～28cm、幅8.5～15cmほどです。葉の基部は翼状になり、短い毛と腺点があります。縁には不規則な鋸歯があり、先端はやや尖っています。側枝につく葉は、上部に向かうにつれて小さくなり、柄がありません。
花: 開花期は9～11月。横に伸びた枝の葉の付け根から、柄のない頭花を下向きにつけます。頭花の直径は6～8mmで、鐘球形をしています。総苞片は3列あり、外側のものは短く先端が丸いです。花冠は黄色です。
果実: 痩果は長さ3.5mmで、先端は嘴状に突き出て粘液を分泌します。この粘液によって衣服などにくっつき、種子散布に役立ちます。また、痩果には特有の臭気があります。

生態

分布: 日本では北海道から琉球列島まで広く分布しています。国外では、朝鮮半島、中国、ヒマラヤ、西アジア、ヨーロッパに分布していますが、西アジアからヨーロッパの分布は移入によるものと考えられています。日本では普通に見られますが、沖縄県内では稀です。
生育環境: 家の周辺や山野など、比較的日当たりの良い場所に生育します。

分類

ガンクビソウ属には、日本に約8種が生息していますが、ヤブタバコのように主茎から長く横に枝を伸ばし、柄のない頭花を枝に沿って並べる種は他にありません。この独特な姿から、他の種との区別は容易です。

利用

食用: 若い葉を茹でて水にさらした後、食用とすることがあります。
薬用: 中国では、乾燥させた葉を「天名精」と呼び、止血、解毒、腫れ物、打ち身などの薬として利用してきました。また、痩果は「鶴虱」と呼ばれ、条虫駆除剤として利用されます。根や種子も薬用として用いられます。

参考文献

佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他『日本の野生植物 草本III 合弁花類』,(1981),平凡社
北村四郎・村田源・堀勝、『原色日本植物図鑑・草本編I』、(1957)、保育社
初島住彦 『琉球植物誌』 沖縄生物教育研究会、1975年、追加・訂正版
池原直樹、『沖縄植物野外活用図鑑 第9巻 あかね科～らん科』、(1989)、新星図書
* 高橋秀男、「ヤブタバコ」：『朝日百科 植物の世界 1』、(1997)、朝日新聞社：p.75

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