ヤポネシア

ヤポネシア（Japonesia）

小説家・島尾敏雄が考案した「ヤポネシア」は、日本列島を新たな視点から捉え直すために生まれた造語です。ラテン語の「Japonia」または現代ギリシア語の「Iaponia」に、古典ギリシア語で群島を意味する「ネシア（nesia）」を組み合わせた言葉で、国家としての日本ではなく、島々の連なりとしての日本列島を指し示す言葉として用いられています。

概要

島尾敏雄は、幼少期を横浜と神戸で過ごし、第二次世界大戦中に奄美大島の属島である加計呂麻島に駐屯した経験を持っています。戦後、1955年に奄美大島の名瀬（現在の奄美市名瀬地区）に移住し、新日本文学会の機関誌『新日本文学』にエッセイ「名瀬だより」を連載しました。この連載の中で、島尾は日本列島を「島々の連なり」として捉える独自の視点を提示し、それを表現するために「ヤポネシア」という言葉を生み出しました。

「ヤポネシア」という言葉は、島尾の文学活動を通じて広まりました。この言葉は、単なる地理的な名称ではなく、文化的な視点を提供するものとして、文芸評論、ポストコロニアル批評、カルチュラル・スタディーズなどの分野で広く用いられるようになりました。また、「琉球弧」という概念が文化論上の概念として再定義されるきっかけになったとも言われています。

影響

「ヤポネシア」という言葉は、「琉球弧」という概念とともに、南西諸島の住民とその子孫の間で広く受け入れられました。南西諸島が日本列島史において果たした役割や、近世から近代、現代にかけての被収奪・被抑圧の歴史を表現する際のキーワードとして多用されています。沖縄出身の作家、霜多正次には、自身の戦時中の捕虜体験を題材にした小説『ヤポネシア』があります。

2020年現在、「ヤポネシア」という言葉は学術用語としても認知されており、ヤポネシアに最初のヒトが渡来したのは約4万年前と考えられています。古代人と現代人のゲノム比較などから、彼らがどのような起源を持ち、ヤポネシア人として成立・発展していった過程を明らかにする研究が2018年頃から行われています。



参考文献

島尾敏雄「ヤポネシア序説」創樹社 (1977年）
島尾敏雄「琉球弧の視点から」講談社 (1969年)
* 島尾敏雄「名瀬だより」農山漁村文化協会 (1977年）

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