ヤマト (宇宙船)

ヤマト（NASDA構想）

「ヤマト」とは、1980年代前半に日本の宇宙開発事業団（NASDA、現在のJAXAの一部）内で将来の有人宇宙輸送システムとして検討された、再使用型宇宙往還機の構想に報道機関が付与した非公式な愛称です。この名称はNASDAが公式に使用したものではありませんでした。

この構想は、当時のNASDA内部の一部の技術者によって進められました。計画された「ヤマト」は、大型ロケットの先端に搭載されて宇宙空間へ打ち上げられることを想定していました。その最大の特徴は、大気圏へ再突入した後、機体自身が搭載するターボファンエンジンを使用して動力飛行を行い、まるで通常の航空機のように滑走路へ着陸できるという点にありました。この設計思想から、「ヤマト」は従来のカプセル型宇宙船とは一線を画し、非常に航空機に近い特性を持つ宇宙機として構想されました。

機体の外観は、当時のアメリカ合衆国のスペースシャトル・オービタにも似た、ダブルデルタ翼を持つ無尾翼機として描かれていました。そのコンパクトな形状から、しばしば「ミニシャトル」とも称されました。機体内部には、前方から順に操縦室、ドッキングポート、そしてカーゴベイが配置される予定でした。

ただし、「ヤマト」構想は、スペースシャトルのように軌道上での衛星回収や修理といった多様な作業能力を持つものではありませんでした。その主な目的は、純粋に人員や物資を地球と軌道間で往復輸送することに特化していました。

しかしながら、この「ヤマト」構想が検討されていた1980年代前半には、構想されたような有翼宇宙機を打ち上げる能力を持つH-IIロケットはまだ存在していませんでした。また、この構想自体が、将来的な有翼宇宙機開発に向けた基礎研究や可能性を探るためのケーススタディ、つまり机上検討の側面が強かったのです。

これらの理由から、当時の技術水準や日本の宇宙開発の優先順位を考慮すると、「ヤマト」構想は現実的な計画として実行に移すには時期尚早であると判断されました。結果として、このユニークな再使用型宇宙往還機の実現には至りませんでした。

「ヤマト」構想の終了後、NASDAは1985年（昭和60年）から、より現実的なステップとして、無人の有翼宇宙往還機であるHOPE（H-II Orbiting Plane）の研究・開発へと軸足を移していくことになります。

以下に、「ヤマト」構想における計画段階の諸元を示します。これはあくまで構想段階の数値であり、実現した場合に変更される可能性がありました。

全長: 13.5 メートル
全幅: 7.5 メートル
全高: 4.5 メートル
翼面積: 18.0 平方メートル
自重: 7,190 キログラム
全備重量: 10,480 キログラム
搭載エンジン: ターボファンエンジン 2基（それぞれ推力 1,600 kgf）
航続距離: 約1,852 キロメートル（1,000海里）
着陸滑走距離: 約914.4 メートル（約3,000フィート）
乗員: 4 名

「ヤマト」構想は実現しませんでしたが、日本の有翼宇宙機開発の礎石の一つとして、その後の研究に影響を与えたと言えるでしょう。

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