ヤマハ・OX99-11

OX99-11（オーエックス99-11）

OX99-11は、日本のヤマハ発動機が1991年に発表したコンセプトスポーツカーである。同社がモータースポーツ、特にフォーミュラ1（F1）へのエンジン供給で培った最先端技術を四輪車開発に活かそうという試みから生まれたモデルであり、将来的な市販を目指して開発が進められた。そのコンセプトは「ロードゴーイングF1」、すなわち公道を走行可能なF1マシンという極めて挑戦的なもので、当時のスーパーカー像を塗り替える可能性を秘めていた。

開発が順調に進む中、1992年5月には、生産および販売の拠点とする予定だったイギリス・ロンドンにて正式な発表会が行われた。この場で、1994年のデリバリー開始がアナウンスされ、世界中の自動車ファンから大きな注目を集めた。しかし、発表と時を同じくして、日本経済はバブル崩壊後の厳しい局面に突入していた。発売予定価格は当時の為替レートで約1億3,000万円という破格の100万ドルと設定されており、経済情勢の悪化は販売計画に深刻な影響を与えた。想定されたほどの受注が得られなかったことに加え、ヤマハ発動機本体の業績も低迷したことが追い打ちとなり、採算性の確保が困難となったプロジェクトは、ついに1993年に開発中止が決定。市販化されることなく、文字通り「幻のスーパーカー」となった。

メカニズム

OX99-11の最大の特徴は、その成り立ちがレーシングフォーミュラそのものだった点にある。心臓部には、当時ヤマハがF1チームに供給していた排気量3,498ccのV型12気筒DOHC60バルブエンジン、「OX99」を公道走行向けにデチューンして搭載。これを車体中央に配置するミッドシップレイアウトを採用した。車体構造には、当時最先端素材であったCFRP（炭素繊維強化プラスチック）製の軽量かつ高剛性なモノコックシャシーを採用。サスペンションも、レーシングカーで一般的なインボード式のダブルウィッシュボーンが組み込まれた。さらに、エンジンとギアボックスが一体化されたトランスアクスルは、ボルトでシャシーに結合されるなど、その構造はF1マシンと共通する要素が極めて多かった。これらの高度なレーシング技術が、そのまま公道用車両に転用されていたのである。

ボディデザインは、レーシングカーコンストラクターであるムーンクラフト代表の由良拓也氏が担当した。空気力学を徹底的に追求した結果生まれたそのデザインは、有機的な曲線で構成された極めて個性的かつ独特なものである。由良氏が過去に手掛けたグループCカー、マツダ・717Cとのデザイン上の類似性も指摘されている。こうした複雑な曲面構成を実現するため、ボディ素材には熟練の職人による手作業のアルミニウム合金に加え、FRPが使用された。

インテリアにおける最もユニークな点のひとつが、前後一列に並んだタンデム配置の二人乗りシートレイアウトである。これは、運転席を車体中央に据え、その真後ろに助手席を配置するという、まるでオートバイのような極めて珍しい構成であり、ドライバーの視点や車体との一体感を重視した結果と言えるだろう。

そのパフォーマンスは、最高速度350km/h、停止状態から時速100kmまでの加速はわずか3.2秒と、当時の最高峰スーパーカーに匹敵する驚異的な数値を叩き出し、そのポテンシャルの高さを証明した。

保存車両

開発計画は終了したが、生産されたごく少数のプロトタイプは現在も大切に保存されている。2018年11月3日には、静岡県袋井市にあるヤマハ袋井テストコースで開催されたイベント「歴史車両デモ走行見学会2018」にて、動態保存されている車両が登場。実際にコース上でデモ走行を披露し、多くの自動車ファンを魅了した記録がある。市販化は叶わなかったものの、ヤマハの技術力と情熱が生み出した伝説的な一台として、今なお語り継がれている。

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