ヤマハ・TY50

ヤマハ発動機が製造販売していたオートバイ『TY50』は、1970年代のミニバイク市場において独特の存在感を放っていました。そのデザインは、1973年に発売された兄貴分であるトライアル車『TY250J』を彷彿とさせます。TY250Jを彷彿とさせるシャープな車体と、本格的なトライアルマシンを思わせるスタイルは、多くのライダーの心を掴みました。

しかし、TY50の心臓部であるエンジンは、GT50と同系統の50ccエンジンを搭載しながらも、トライアル走行に適した低速トルク重視のセッティングが施されていました。最高出力は4馬力と、当時の50ccミニバイクの中では控えめな数値でした。軽量化も特に追求されていなかったため、急勾配の坂道や岩場など、本格的なトライアル走行にはやや力不足を感じさせる場面もありました。

この非力さは、TY50が本格的なトライアル競技用マシンとして開発されたわけではないことを示唆しています。むしろ、トライアル車風のデザインと、扱いやすいエンジン特性を併せ持つ、デュアルパーパス的な性格のミニバイクと言えるでしょう。ライバル車であったホンダのバイアルスTL50も、同様のコンセプトを持つモデルでした。バイアルスTL50も4サイクルエンジンを搭載し、最高出力は4.2psとTY50とほぼ同等でした。両車とも、本格的なトライアル走行には不向きでしたが、そのスタイリッシュなデザインと扱いやすさから、多くのユーザーに支持されました。

TY50のもう一つの特徴として、当時若手俳優として人気急上昇中だった小堺一機をイメージキャラクターに起用していた点が挙げられます。小堺一機を起用した広告戦略は、TY50のスタイリッシュなデザインと、若者世代への訴求を効果的に結びつけることに成功しました。

TY50は、本格的なトライアル走行には適さないものの、その独特のデザインと扱いやすさから、多くのライダーに愛されました。トライアル車の雰囲気を味わいたい、けれど本格的な競技には参加しないというライダーにとって、TY50は最適な一台だったと言えるでしょう。また、小堺一機を起用した広告戦略も功を奏し、TY50は当時のミニバイク市場において、個性的な一台としてしっかりと存在感を示したのです。その魅力は、単なる移動手段を超えた、一種のファッション性やステータス性にもあったと言えるのではないでしょうか。TY50は、単なる乗り物ではなく、当時の若者文化を象徴する存在でもあったと言えるでしょう。

もう一度検索