ヤンドー・イェネー

ハンガリー出身の傑出したピアニスト、そして音楽教育者として知られるヤンドー・イェネー（Jandó Jenő）は、1952年 2月1日にこの世に生を受け、2023年7月4日に71歳でその生涯を閉じた。母国ハンガリーでは氏名が姓・名の順に表記されるが、日本では慣習として英語圏にならい、名・姓の順に倒置され、さらに長母音も省略された「イェネ・ヤンドー」として言及されることもある。ブダペストのリスト・フェレンツ音楽大学で長年にわたり教授を務め、後進の指導にも熱心にあたった人物である。

人物と来歴

ヤンドー・イェネーは、1952年にハンガリー南部の都市ペーチで生まれた。7歳という幼い頃からピアノを始め、その才能を開花させていく。ペーチではヴェイニンゲル・マルギトにピアノの手ほどきを受け、さらに地元の音楽学校ではリゲティ・アンドラーシュやジェルマーン・イシュトヴァーンからも指導を受けた。彼らの薫陶を受けた後、1968年にはブダペストにあるハンガリー屈指の名門、リスト・フェレンツ音楽院（現在のリスト・フェレンツ音楽大学）に入学。ここではネメシュ・カタリン、カドシャ・パール、そしてミハーイ・アンドラーシュといった錚々たる教授陣のもとで研鑽を積み、1974年に同音楽院を卒業した。

教育課程を経て、ヤンドーは国際的な舞台での活躍を開始する。各地で開催された主要な音楽コンクールで次々と入賞を果たし、その卓越した技術と音楽性を示した。特に、1972年のジョルジュ・シフラ国際ピアノコンクールでの第2位入賞は、彼のキャリア初期における重要な成果であった。翌1973年にはハンガリー放送ピアノコンクールで第1位を獲得し、母国での評価を不動のものとした。1975年のディノ・チアーニ国際コンクールでも再び第2位に輝き、国際的な知名度を高めた。1977年のシドニー国際ピアノコンクールでは第11位という結果であったが、ムジカ・ヴィヴァ室内楽賞を受賞するなど、幅広い分野での才能が認められた。これらの輝かしいコンクール歴は、彼のピアニストとしての高い実力を証明している。

音楽活動と教育

ヤンドー・イェネーは、ピアニストとして精力的な演奏活動を世界中で展開した。活動範囲はヨーロッパ各国に留まらず、遠く日本やカナダなど、様々な国でその演奏を披露した。同時に、彼は教育者としても重要な役割を果たした。1974年に母校であるリスト・フェレンツ音楽院を卒業した後、間もなく同校の教員となり、2020年までの長きにわたり、およそ半世紀近くにわたって後進の指導にあたった。リスト・フェレンツ音楽大学の教授として、多くの若い音楽家たちを育成し、ハンガリーの音楽教育に多大な貢献をした。

彼の音楽活動における特筆すべき功績の一つが、ナクソス・レーベルに遺された膨大な数の録音である。ナクソスは幅広いレパートリーを網羅する廉価盤レーベルとして知られるが、ヤンドーはここで数多くの作品を録音し、世界中の音楽愛好家に彼の演奏を届けた。録音レパートリーは非常に多岐にわたるが、とりわけフランツ・リストをはじめとするロマン派のピアノ作品を得意とした。しかし、彼の関心は特定の時代に留まらなかった。ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンといったウィーン古典派の重要な作曲家たちの作品も数多く録音しており、その幅広い音楽性を示すだけでなく、これらの楽曲の普及にも大きく貢献した。彼の録音は、その正確さと音楽への誠実なアプローチで高い評価を得ている。

晩年

2020年にリスト・フェレンツ音楽大学での教職を退いた後も、ヤンドー・イェネーは音楽活動を続けていたと推測されるが、公の場での活動の詳細は不明である。2023年7月4日、彼はハンガリーの首都ブダペストにある自宅で、71歳で静かに息を引き取った。彼の死は多くの音楽ファンに悼まれたが、残念ながら死因を含む詳細については公表されていない。ヤンドー・イェネーが遺した数多くの録音は、今後も長く聴き継がれていくことだろう。彼の生涯は、ハンガリー音楽界、そして世界のピアノ界に確かな足跡を残したものであった。

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