ヤン・エキエル

ヤン・エキエル

ポーランドが誇る音楽家、ヤン・エキエル（Jan Stanisław Ekier、1913年8月29日 - 2014年8月15日）は、ピアニスト、教育者、作曲家、そしてフレデリック・ショパンの作品研究における第一人者として、その長い生涯にわたり多大な功績を残しました。

クラクフで生まれた彼は、妹のハリーナもまたピアニストという音楽一家に育ちました。学問への探求心からヤギェウォ大学で音楽学を修めた後、ワルシャワ音楽院へと進み、ズビグニェフ・ジェヴィエツキにピアノ、カジミェシュ・シコルスキに作曲を師事するなど、研鑽を積みました。さらに、ブロニスワフ・ルトコフスキからはオルガンの指導も受けています。

若き日の彼は、1937年のショパン国際ピアノコンクールで第8位に入賞し、ピアニストとしての才能を示しました。第二次世界大戦中の困難な時代には、1944年のワルシャワ蜂起にも参加しています。

戦後、彼は教育者としての道を本格的に歩み始めます。1947年にはグダニスクに設立されたスタニスワフ・モニューシコ音楽院の創設に携わり、翌年まで学長を務めました。その後、1962年から1969年にかけてクラクフ音楽アカデミーで教授を務めるなど、各地の音楽教育機関で指導にあたります。特に、1964年から1972年まで、そして1974年以降はワルシャワ国立高等音楽学校（現在のショパン音楽大学）のピアノ科教授として、ブロニスワヴァ・カヴァラ、ピオトル・パレチニ、アリツィア・パレタ＝ブガイ、河合優子をはじめとする数多くの優れた音楽家を育成しました。国内外でマスタークラスを開催し、その指導は世界各地の若い音楽家たちに影響を与えました。

ヤン・エキエルの最も重要な業績の一つは、フレデリック・ショパン作品全集の校訂と編纂です。1959年よりショパン・ナショナル・エディション財団の編集主幹を務め、長年にわたる meticulous な研究と比較検討の末、信頼できる「ナショナル・エディション」を完成させました。補遺作品集を除く本編は2010年に完結し、その質の高さから、現在はショパン国際ピアノコンクールの公式使用譜としても認められています。この権威ある楽譜は、日本でも全音楽譜出版社から日本語版が販売されています。

彼はまた、ショパン国際ピアノコンクールと深く関わりました。1949年からは審査員として参加し、1985年からは審査員長として、世界の若きピアニストたちの才能を評価する重要な役割を担いました。彼の長年の経験とショパン作品に関する深い知識は、コンクールの公正な運営に不可欠なものでした。

その多大な功績に対し、ヤン・エキエルはポーランド国家から数々の栄誉を授けられました。1964年と1974年にはポーランド文化大臣賞一等賞を受賞し、1995年にはショパン音楽アカデミーから名誉博士号を授与されました。2000年8月17日にはポーランド復興勲章星付きコマンドルスキ十字勲章（二等）を、そして2010年10月21日には民間人としては最高位とされる白鷲勲章を受章しています。

2013年8月29日に100歳の誕生日を迎え、多くの人々に祝福されました。しかしその翌年、2014年8月15日、100歳と352日の生涯を閉じ、ワルシャワ市内の病院で息を引き取りました。ヤン・エキエルの遺した功績、特にショパン研究と教育における貢献は、今後も長く音楽史にその名を刻むことでしょう。

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