ヤン・グロス

ヤン・トマシュ・グロスについて

ヤン・トマシュ・グロス（Jan Tomasz Gross）は1947年にポーランドのワルシャワに生まれたユダヤ系アメリカ人の学者です。彼は現在、プリンストン大学にて戦争と社会に関する研究を進めており、「Norman B. Tomlinson ’16 and ’48」教授と歴史学教授の職を担っています。

彼の背景と学歴

グロスの家族背景も非常に興味深いもので、母親はポーランドのレジスタンス軍である国内軍（Armia Krajowa, AK）のメンバーでした。一方、父親はユダヤ系でポーランド社会党の党員でした。母親はナチス・ドイツの占領下で家庭を守るために命がけで父を支援し、その後、二人は結婚します。グロス自身はワルシャワ大学で物理学を学びましたが、1968年には学生運動に参加し、その影響を受けて退学処分を受け、牢獄に5ヶ月間収監されることとなります。

その後、ポーランド政府が「ユダヤ系の人々」に国外移住を許可したことを受け、両親とともにアメリカに移住します。1975年にイェール大学で社会学の博士号を取得し、以後、イェール大学、ニューヨーク大学、パリ大学などで教鞭をとります。現在は、アメリカ国籍を取得し、プリンストン大学で歴史を教えている重要な人物となっています。

学術的な業績と功績

グロスはその学問的な貢献に対しポーランド共和国功労勲章を受章しており、この勲章は他国とポーランドとの関係に特に貢献した外国人に与えられるものです。また、フルブライト・プログラム準研究員や、ジョン・サイモン・グッゲンハイム記念財団の研究員、ロックフェラー財団人権部門のフェローとしても活動しています。

論争と著作

グロスが特に著名な学者となったのは、著書『Neighbors: The Destruction of the Jewish Community in Jedwabne, Poland』によるものです。この書物ではナチスの占領下におけるポーランドのイェドヴァブネという村でのユダヤ人虐殺について探求しており、これまで信じられていたドイツ人による仕業ではなく、地元のポーランド人によって行われたという指摘をしています。

この主張はポーランド国内で物議を醸し、その後、ポーランド国家記銘院による調査において彼の結論が大体において支持される結果となりました。ただし、いくつかの点、特に犠牲者の数に関しては異なる見解が示されました。

さらに、グロスの著作『アウシュヴィッツ後の反ユダヤ主義―ポーランドにおける虐殺事件を糾明する』（2006年）でも、戦後のポーランドにおける反ユダヤ主義とその暴力に焦点を当てており、ポーランド語版も刊行されています。この本はメディアの間で多様な反響を呼び、支持と批判が入り混じりました。特に、彼の調査方法や歴史的解釈に対して疑問の声も上がり、歴史家たちは彼の主張の根拠を吟味する姿勢を求めました。

このように、ヤン・トマシュ・グロスは歴史の解釈に関する豊富な業績を持ちながらも、その議論の過程で多くの批判にも直面している複雑な人物であると言えるでしょう。彼の研究は、ポーランドにおける歴史認識を再考するための重要な一歩として位置づけられることが多いです。

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