ヤーノシュ・ジグモンド

ハンガリー王ヤーノシュ2世（サポヤイ・ヤーノシュ・ジグモンド）

ハンガリーの政治史において、特に波乱に満ちた時代を象徴する存在が、ヤーノシュ2世（1540年 - 1571年）です。彼はサポヤイ・ヤーノシュとポーランド王女イザベラ・ヤギェロンカの唯一の子として生まれ、1560年代の政治的混乱と宗教的対立の中で、時に逆境に立たされながらも、その指導力を発揮しました。

半ば生まれた王

ヤーノシュ2世は、父の死の直前に誕生し、わずか数ヶ月の幼子としてハンガリー王に選出されました。彼の治世の初期は、ハプスブルク家のフェルディナーンド1世との王位を巡る争いによる内紛の真っただ中にありました。1541年にはオスマン帝国の侵攻があり、彼の治めるハンガリーは一時的にオスマン帝国の勢力下に置かれる事となります。しかし、彼が王太后イザベラの下で成長するにつれ、状況は徐々に変わっていきました。

イザベラは彼の教育に深く関与し、ハンガリーにおける権力の維持のため積極的に行動しましたが、1551年、トランシルヴァニアの実権を握ろうとしたフラーテル・ジェルジにより、ヤーノシュ・ジグモンドは一時王位を放棄せざるを得なくなりました。この退位によって、母子はポーランドへと亡命することになります。

ハンガリーへの復帰

1556年、彼と母イザベラは、スレイマン1世の力強い後押しを受けてハンガリーに戻ることに成功しました。ヤーノシュ・ジグモンドは再び王として君臨し、母の死後は親政を開始します。この頃から彼は宗教問題に積極的に関与し、プロテスタントとカトリックの対立の中で、信教の自由を求める姿勢が顕著になりました。1568年にはトルダの勅令を通じて宗教的迫害を禁止し、様々な信仰を持つ人々が平等に暮らせる環境を整える指導者としての資質を見せました。

この政策は当時のヨーロッパにおいて非常に先進的であり、彼は宗教的多様性を重視する統治を行ったことで知られています。

ユニテリアン主義の導入と文化的影響

さらに、ヤーノシュ・ジグモンドは唯一のユニテリアン君主としても知られています。彼は自身が反三位一体派の教義を受け入れると、宮廷の教員や聖職者に対しても新たな考え方を促し、次第にトランシルヴァニアの宗教的環境を変えていきました。1560年代には、彼は神学討論を主催し、カルヴァン派やルター派と議論を重ねたことで、各宗派の理解を深めることに寄与しました。

文化的には、彼の治世において人文主義が栄え、多くの教育機関が設立されました。彼は国内の高等教育を推進し、学校や大学の設立を奨励しました。

王位の放棄と遺産

1570年、ハンガリー王国の政治状況が変わる中、ヤーノシュ・ジグモンドはミクシャ1世との条約により王位を放棄し、以降は「トランシルヴァニア侯」として知られるようになります。彼の否応なく下した王位放棄は、トランシルヴァニア地域の将来に大きな影響を与えました。彼の死後、彼の信教への寛容な姿勢と教育に対する情熱は、その後のハンガリーの歴史において重要な役割を果たしていきました。

結論

ヤーノシュ・ジグモンドは、生涯結婚せず子も持たず、彼をもってサポヤイ家は断絶しますが、その治世の終末における宗教的自由の確立や文化的支援の取り組みは、彼が遺した大きな遺産です。彼の統治がもたらした影響は、単なる一王の統治を越え、後の時代における宗教政策と文化振興に大きな道標を示しました。

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