ヤーロウ・シップビルダーズ

ヤーロウ・シップビルダーズ：スコットランド造船史に刻まれた名門の軌跡

ヤーロウ・シップビルダーズ（Yarrow Shipbuilders Limited、略称YSL）は、スコットランドのクライド川沿いに位置し、世界的な造船会社として名を馳せた企業です。その歴史は、1870年代にアルフレッド・ヤーロウがロンドンに設立したヤーロウ社に始まります。同社は当初ロンドンに拠点を置いていましたが、1906年にはグラスゴーのスコッツタウンへと移転。この地で、ヤーロウ社は世界にその名を轟かせることになるのです。

ヤーロウ社の最大の功績は、駆逐艦建造における卓越した技術力にあります。第二次世界大戦前までに、イギリス海軍を始め、多くの国々に駆逐艦を供給。その高い技術力は、海軍力の強化に大きく貢献しました。さらに、ヤーロウ社はボイラー製造でも高い評価を得ており、同社が開発した水管ボイラーは「ヤーロウ式ボイラー」として広く普及し、日本海軍の艦本式ボイラーにもその技術が活かされました。

戦後の1965年には、ブリスウッド社を吸収合併し、スコッツタウンの造船所は規模を拡大。翌年には子会社を設立し、やがてヤーロウ・シップビルダーズとして独立した企業体となりました。その後、1968年にはアッパー・クライド・シップビルダーズへ加盟するものの、1971年には脱退。1975年にはバークレー・カール社を吸収合併するなど、積極的な経営戦略を展開しました。

しかし、1977年には、ジェームズ・キャラハン労働党政権による国有化政策「Aircraft and Shipbuilding Industries Act 1977」によって、ヤーロウ・シップビルダーズはブリティッシュ・シップビルダーズに統合されることになります。この国有化は、英国造船業界の再編を目的としたものでしたが、その後の保守党政権下では民営化の流れが加速。ブリティッシュ・シップビルダーズは民営化されませんでしたが、その傘下にあった各部門は順次民間に売却されていきました。

ヤーロウ・シップビルダーズは、1985年にGEC-マルコーニに売却され、GECの再編を経てマルコーニ・マーリン社の一部となりました。その後、1987年にはスコッツタウンの造船所はマルコーニ・エレクトロニック・システムズの所有となりました。さらに、1999年にはマルコーニ・エレクトロニック・システムズがブリティッシュ・エアロスペース（BAe）に売却され、BAeの改編を経て、現在はBAEシステムズ・サーフェス・シップスがスコッツタウンの造船所を保有しています。

このように、ヤーロウ・シップビルダーズは、創業から統合まで、数々の合併や買収、そして国有化、民営化といった激動の時代を生き抜きました。その過程で、世界的な駆逐艦建造会社としての地位を確立し、独自のボイラー技術開発など、英国造船業界に多大な貢献を果たしました。現在は、BAEシステムズの一部としてその歴史に幕を閉じましたが、その名はスコットランド造船史に深く刻まれています。現在も、近隣のゴーヴァン造船所と共に、BAEシステムズ・サーフェス・シップスの主要造船所としてその歴史を継承しています。スコッツタウンの造船所は、ヤーロウ・シップビルダーズの名を受け継ぎ、YSL造船所と呼ばれることもあります。 ヤーロウ・シップビルダーズの歴史は、英国造船業界の変遷、そして技術革新の歴史を物語る重要な一端と言えるでしょう。

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