ユルゲン・モルトマン

ユルゲン・モルトマン：希望の神学を提唱したドイツの神学者

ユルゲン・モルトマン (1926年4月8日 - 2024年6月3日) は、20世紀後半から21世紀にかけて活躍した、ドイツを代表する著名な神学者です。彼の神学思想は世界中に大きな影響を与え、特に「希望の神学」という概念で広く知られています。

戦争体験と神学への道

モルトマンはハンブルクで生まれました。第二次世界大戦中はナチス・ドイツの軍隊に所属し、捕虜としてベルギーとスコットランドの収容所で3年間を過ごしました。この過酷な経験が、彼の人生と神学思想に大きな影響を与えました。収容所での生活の中で、キリスト教の信仰と、十字架の苦しみと復活の希望に出会います。この経験は、後に彼独自の「希望の神学」の基盤となります。

大戦後、モルトマンはゲッティンゲン大学福音主義神学部で学び、H・J・イーヴァント、E・ヴォルフ、オットー・ヴェーバーといった著名な神学者たちから影響を受けました。その後、イギリスへの留学を経て、ブレーメンのヴァッサーホルスト教会で牧師を務めた後、ヴッパータール神学大学、ボン大学、そしてテュービンゲン大学で組織神学の教授として教鞭を執りました。

希望の神学と主要著作

モルトマンの国際的な名声は、1964年に発表された『希望の神学：キリスト教的終末論の基礎づけと帰結の研究』(原題: Theologie der Hoffnung)によって確立されました。この著作は、キリスト教における終末論を、単なる未来への期待ではなく、現在における希望の生き方として捉え直すという、画期的な試みでした。それまでのキリスト教神学において、終末はしばしば未来における出来事として捉えられがちでしたが、モルトマンは、希望こそが神の現実であり、人間を救済へと導く力であると主張しました。

彼の著作は多岐に渡り、『神学の展望』『キリストの未来と世界の終り』『人間：現代の闘争の中におけるキリスト教人間像』『十字架につけられた神』『聖霊の力における教会』など、数多くの重要な著作を発表しました。これらの著作を通して、モルトマンは現代社会の様々な問題、例えば社会正義、政治、エコノミー、そしてフェミニズムといった問題に、キリスト教神学の視点を持ち込み、深い洞察を与えています。彼は、単に過去の伝統を踏襲するだけでなく、現代社会の現実と対峙し、希望のメッセージを伝え続けました。

フェミニスト神学との関わり

モルトマンは、フェミニスト神学の第一人者であるエリーザベト・モルトマン＝ヴェンデルと結婚し、夫婦で多くの共著を発表しました。彼の神学には、フェミニズムの視点が深く組み込まれており、女性の権利やジェンダー平等に関する問題にも積極的に取り組んでいます。

モルトマン神学の意義

ユルゲン・モルトマンの神学は、現代神学において重要な位置を占めています。彼の「希望の神学」は、絶望的な状況の中でも希望を見出し、行動へと促す力強いメッセージです。彼の著作は、世界中の人々に希望を与え続け、現代社会の様々な問題を考える上で、貴重な指針となっています。モルトマンの死は、世界中の多くの信者や学者にとって大きな損失ですが、彼の思想はこれからも多くの人々に影響を与え続けるでしょう。

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